図解! 循環型農業団地構想とは?
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確実な事業成長を遂げてきた雪国まいたけが挑戦する次なる成長戦略は、これまでのイメージを真っ向から覆すカット野菜事業だ。雪国まいたけが新たに市場を創造しようとしているのは、まさに青果部門における炒めてよし、蒸してよし、電子レンジでの調理も可能なカット野菜だ。新事業の開始について、またその先にある将来構想について、大平喜信代表取締役社長に話を聞いた。
サラダ系カット野菜ではなく『調理用カット野菜』の新市場を創出!
2009年10月、雪国まいたけは一部の量販店で、炒めたり、蒸したりする調理用カット野菜「もやし野菜ミックス」「きのこ野菜ミックス」の販売を開始する。一般の消費者向けに出回っているカット野菜市場は、200億~300億円市場といわれているが、これはコンビニエンスストアなどで販売されているサラダを中心としたサラダ系カット野菜の比率が半分を超えていると予想されており、調理用のカット野菜市場の潜在ニーズは計り知れない。
「これまでも小売店によっては、青果のカット野菜を販売しているところもありました。核家族化や女性の社会進出が進むなかで、こうした便利な商材に対するニーズは高いものがあります。けれど、市場はそれほど伸びてきませんでした」(大平社長、以下コメントすべて同じ) 市場が拡大してこなかったのは、「まず、価格が割高であったこと。
丸ごとの野菜を購入して、使いきれずに家で腐らせてしまう可能性があるとしても、カットされて、ある程度用途が限定されて売られている野菜のほうが割高であれば、お得感がまったくありません。そうした消費者心理が働けば、必然的に購入には結びつかない。だから、カット野菜のほうが圧倒的に経済的だという認識を持ってもらえる価格帯で商品を提供しなければ意味がないのです」と大平社長は語る。
地域の農家と協同一致して 安全・安心な生鮮野菜を安価に提供する新スタイルを確立!
これまで同社が築き上げてきた生産ノウハウの賜物である「きのこ」や「もやし」に加え、キャベツやにんじんといった生鮮野菜をセットした商品の準備が進んでいる。しかし、きのこやもやしの生産ノウハウにいかに造詣が深くても、きのこ・もやし同様に低コストで高効率、かつ安全・安心な商品として生鮮野菜を提供することは可能なのだろうか。
「それはもちろん簡単なことではありません。農家さんたちを巻き込んでのプロジェクトです。大規模農家さんとタイアップしながら、委託生産してもらい、生産過程のデータなどはすべて当社に寄せていただくという契約農家のスタイルです」 農家での栽培データをすべて提供してもらうことで買取単価を保証。今後、データの蓄積・分析を重ね、きのこやもやし同様に作り方に工夫を加えて、市場を拡大するという計画だ。
「自社では効率的な栽培方法の確立などに向けてデータ取得のための試験農場を展開するくらいで、すべてを自社で生産することはしません。当社が実績をあげてきた『農業の工業化』という発想を基に、どれだけ農地に『安全・安心』で『将来性のある』新しい生産方法・生産技術をもたらせるかがキーポイントになってきます」一見、きのこやもやしの栽培とジャンルが違うのでは、と思えるこの計画だが、41ページまでで紹介した「雪国まいたけの強み」すべてをフル活用することができる。
「今では、栽培きのこの販売は当たり前かもしれませんが、25年前はきのこの事業化は無理だといわれていました。現在の農業と同じような状況です。まず間違いなくいえるのは、当社のきのこの大量生産・栽培技術は日本一ではなく世界一だという自信があるということ。同業他社では延べ床面積の半分以下しか栽培に利用できていませんが、当社は延べ床面積の73%を栽培に利用しています。自然の生態系を再現した大量生産技術があるからこそ、栽培効率のいい工場設計ができるということ。
だからこそ化学農薬や化学肥料を使わず、自然エネルギーを最大限に活用し、徹底した低コストを実現することができるのです。生鮮野菜についても同様の考え方での事業化を進めていくつもりです」加えてきのこは48時間以内に310種類、カット野菜は14時間以内に224種類の残留農薬・重金属を分析できる検査技術を用いることで、消費者が望む「安全・安心」を担保できる野菜の提供が可能という点、ほぼ全国の量販店に独自の販売ルートを持っているという点も実現に向けて大きな力となる。カット野菜は鮮度を重視するため、きのこより短時間で検査を行うことから、現時点では224種類となっているが、徐々にその種類を増やしていく計画だという。
日本の食糧事情を変える可能性を秘めた雪国まいたけの『循環型農業団地構想』
雪国まいたけでは、「カット野菜」を成功へと導くべく、低コスト戦略を追求した結果、「循環型農業団地構想」というものに行き着いたという。
「きのこ栽培では、二酸化炭素が発生します。一方で、生鮮野菜が育つには光合成の原料のひとつとなる二酸化炭素が欠かせません。そこで、きのこ栽培工場と生鮮野菜工場を隣接させ、二酸化炭素をうまくやりとりすることで、生産の効率性向上に取り組んでいます。すでに、試験農場でレタスなどの生産を開始しています」廃棄ガスと呼ばれ、地球温暖化に影響しているといわれる二酸化炭素をうまく使いきって、農薬:栽培期間中不使用野菜を作ってしまおうという発想だ。
さらに、きのこ栽培で使用した「おが屑(廃菌床)」を、高圧蒸気を発生させるバイオエネルギーの原料として利用することも視野に入っている。「現在も、使用済みのおが屑は燃やして蒸気を発生させ、利用しています。それをさらに進めて、タービンを回せるだけの高圧蒸気を発生させ、ここで発電する『オガボイラー発電』を考えています。
発電の後、排出された廃棄ガスを従来通り、暖房に使うという仕組みです」現在も地熱を活用し、水温の上昇などに利用する仕組みを独自に開発・運用している同社には、クリーンエネルギーを使いこなす土壌がすでに育っている。さらに、カット野菜の生産時に発生するカット後に残った野菜を堆肥化したり、バイオエネルギー発生後、最後に残った残渣物を有機肥料として生鮮野菜の栽培に還元していくという。 「メタンガスによるバイオエネルギーや食品廃棄物を利用した養豚といったプロジェクトは世のなかでも進められています。
それを部分的に行うのではなく、雪国まいたけでは、すべてを還流させ、完結していく仕組みを作りたいと考えています。何も無駄にしない。それが実現できれば、現在よりもさらに低コストな生産体制が出来上がるのです」養豚まで取り込むにはまだ時間がかかるとの見解だが、現在、雪国まいたけではきのこが持つ薬理効果の研究を国内外の大学や研究機関と推進しており、まいたけに含有されるMDフラクションに免疫力を活性化させる作用があると期待されている。実際、米国FDA(食品医薬品局)において薬としての許可を受けるための臨床試験はフェーズ2に入る予定だ。
「まいたけを栽培した後の廃菌床を利用して飼料を作れば、抗生物質を使わずに豚の免疫力を活性化して、より安全な肉を安定的に、かつ安価に提供できることにつながってくると考えています。そうして育てた豚肉をカット野菜とセットで売るようにすれば、『肉だけ買うよりセットのほうがお得だね』という状況を作ることができます。この発想の原点は、カット野菜をいかに成功させるかというところにあるんです。それを突き詰めていったらこれになっちゃった(笑)。できる・できない、を考えるのではなく、どこに無駄があって、どこに工夫できるか、また、何が望まれているかということだけ考えれば、いろんな発想が出てくるんですよ。後はやるだけです」 確かに、かつてきのこの事業化は無理だといわれていた。それを成し遂げてしまった雪国まいたけの大平社長が語ると説得力が生まれる。
食料自給率アップ国際競争力の向上にも つながる未来を創る画期的なプロジェクト!
現在、日本の食料自給率はカロリーベースで約41%と先進国のなかでも最も低く、農業従事者の7割を60歳以上が占めているといわれている。「放っておけば、20年後には、農業をしてくれている人たちのほとんどがいなくなってしまう。だから、農業を持続可能な形で工業化させて『ここならば、きちんと自分の将来をかけられる』と若者に感じてもらえる、そういう仕組みに変えていかないと、農業をやる人がいなくなってしまいます」
カット野菜事業の採算性の追求から始まった「循環型農業団地構想」。「500haくらいの大規模農場を日本全国20~30カ所で実現できれば、結果として、農業の効率性が上がり、減農薬が実現できます。というのも、現在のような小規模農地だと、農家ごとに農機を保有していますから、稼働率が悪くなる。また、農薬もあちこちで散布するので、回数が増える。今の農薬で駆除できるのは幼虫だけで成虫は他の農地に逃げるだけです。
なので、一斉に行えば、一気に害虫が駆除できますが、ばらばらにやると、結局害虫は農地を行ったり来たりすることになるので、結果的に農薬を散布する回数が増えて、費用もかかります。
それと、大規模農地で栽培した野菜は、すべて一定の価格で当社が買い取り、より一層生産効率をアップさせます。これで、農業従事者の所得向上と安定化を図ることができて、今後を担う若者の参入も期待できます。そうすれば、食料自給率の問題や国際競争力の向上など、いくつもの問題が解決の方向に進むんじゃないかな」と大平社長はおおらかに語る。「私の幸せの定義は『社会の人が喜ぶ、自分も満足する、経済的な豊かさを享受できる』この3つが揃わないとならないということ。
小手先だけ、誤魔化してもばれなきゃ儲かるというのでは幸せになれないんです。後ろめたさがあったら幸せになれない。正しい方向からまっすぐに社会に貢献をしていく、そして人に喜んでもらえれば、自分もうれしい」 確かに壮大なプロジェクトだ。だが雪国まいたけには、そうした正しいことをやり抜くという思いを原動力に、成し遂げてきた数々の実績があることを忘れてはならない。