特命全権大使
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丹羽宇一郎
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戴秉国
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JBプレス 谷口 智彦
原罪を背負い込んでしまった丹羽駐中国大使!
丹羽宇一郎氏にとっては痛烈な洗礼になった。
駐中国大使としての実質的初仕事が、真夜中に呼びつけられて出かけていき、抗議を承ることとはあいなったのだ。
こういう異例な扱いを呑んだことは、この先丹羽大使の在任中、前例として生き続ける。
丹羽氏はいわば、「原罪」を背負い込んでしまった。
そもそもの初発行動で、丹羽氏は対応をひどく誤った。
尖閣諸島久場島(くばじま)北北西、日本領海内で操業中の中国漁船を、海上保安庁の巡視船が発見、体当たりして来るのを取り押さえたのが、9月7日午前の出来事だった。
それから丹羽氏は、中国外交部に引っ張り出され続ける。
最初に呼びつけたのは宋濤という人物で、これは外交部に12人いる次官級役人では序列7位の人だ。
会わなくてもいい下級官僚の呼び出しに応じた愚
公式バイオグラフィーによると、対日関係はその職掌に入っていない。「領事」とか「監察」という、あさっての方向のことを担当していると、説明にはある。
日本の報道では「次官」に呼ばれたことになっていたけれど、甚だミスリーディングである。日本の外務省には次官というと1人しかいないからそれなりの人かと思いがちだが、実態は上の通りだった。
もっと奇異なのは、その翌日の8日、今度は1つランクが下がり、胡正躍という「部長助理」に呼びつけられ、これにも応じて抗議を承りに出かけたことである。
大使とは日本国憲法第7条の定めるところ、天皇陛下から認証を受けて初めてその資格を得る。そういう重たい資格なのだから、赴任国のトップと同格だ。ここらへん、肝に銘じてほしい。
世界で最も序列を大切にしている国のしたたかな作戦!
実際には、例えば駐米日本大使も大統領にそう簡単に電話1本で会えるわけではなく、理屈通りにはいかないにしろ、せめて閣僚以上としか会わないというスタンスは、これは取って当たり前なものだ。
おまけに相手は世界中でいちばんそこら辺り、つまり序列を常に意識している国なのである。
序列7位の次官が最初に呼びつけたのも、その次にわざわざランクを下げて日本の役所で言えば局長クラスの役人が呼びつけたのも、中国側はたまたまお手すきの人を選んでそうしたのではない。計算したうえでのことと見るのが普通だろう。
これにのこのこ応じて出て行ってしまったというのが、丹羽氏の絶対やってはいけなかった初発における誤りである。
これがあって、12日未明の呼び出しになる。今度は「大物」だった。外交を司る人として外相の上位に立つ戴秉国国務委員が、深夜零時を過ぎて出てこいと言い、これにも応じている。
というより、下っ端の誰彼に既に会っているのだから、はねつけることなど難しかったというのが実情だろう。
頭に血が上っている相手には牛歩戦術で
向こうがカッカ来てすぐ来いと言ったからと言って、ハイハイと素直に応じなければならない外交慣例などない。
「何事でございましょうか、こんな夜遅く」
「ハ、さようですか。それでは朝になりましてから」
「なに、今すぐどうしても来い、と。承知しました、それでは急ぎ参りましょう」
とそう言っておいて、髭を剃るのに1時間、バスタブに湯をため、風呂に入るのに2時間、威儀を正してきちんとしたかっこうをしていかないといけないから、身なりを整えるのに2時間、警護の者を呼んで来させるのに1時間、都合6時間、可及的速やかな努力をしたのち、かけつければよかった。
向こうがカッカ来てすぐ来いと言ったからと言って、ハイハイと素直に応じなければならない外交慣例などない。
何をしていたケシカランと、相手はアタマから湯気を吹き出しているかもしれない。それならこう言う。
外交官の資質はここぞの大一番に表れる
「戴秉国さん、お人となり、わたくしよーく承知しておりますよ。本当に気さくでいらっしゃるし、穏やかなお方です。その戴秉国さんが、こんなお芝居を打たなきゃいけないとはねえ。ま、私もやっぱりお芝居しなくちゃいけませんから。お互い外交官てのは、大変ですなあ」
と、これくらいのすっとぼけた対応を、できるかできないか。
外交官というのは、その専門性が一体どこにあるのか、常人とどこが違うのか、普段はなかなか分からない仕事であるかもしれないが、ここぞという決定的な時、その資質を露呈するとっても怖い仕事なのである。
最初の試験で、丹羽氏は手ひどくしくじったと断じざるを得ない。ちょっと可哀相だが。
それはさておき中国が尋常ならざる反発に出ている理由を、日本のメディアはサイバースペースなる空間にどうやらあるらしい中国の世論なるものに帰していることに、少なからず違和感を覚える。
南シナ海と東シナ海で事情が違うはずがない!
沿岸海洋覇権を、中国は南シナ海ではっきり取りに出た。この態度を中国流モンロー・ドクトリン(一定地域について部外勢力の介入を許そうとしない姿勢)の行使であるとして、米国は明確な反対に転じた。
南シナ海沿岸各国は、来るべきものが来たと見て、米国との紐帯再構築に真剣になっている。
その延長上のことと見るのが、常識的見方というものだろう。
つまり中国人民解放軍海軍にとっては、南シナ海と東シナ海を別々に扱う意図も必然もないのであって、戴秉国氏をぎゅうぎゅう締め上げたに違いない。日本に甘く出たら、南シナ海でも地歩を失う羽目になるぞ、それでもいいのか、と。
丹羽氏の一挙手一投足を見ているのはベトナムやフィリピンだ
丹羽氏は東京ばかり見ているかもしれないが、氏の一挙手一投足を真剣に見ているのは、実はベトナムでありフィリピンである。インドネシアでありタイやシンガポールだ。
こういう観客の前で何をするか。深夜の丹羽氏に、そこまでアタマを巡らせるだけの準備は残念ながらなかったというほかあるまい。失敗に懲りて、次からは態度を豹変させてほしい。
そして日本は尖閣諸島に気象観測所でも何でもいいから、恒久的建造物を建て、竹島の愚を繰り返さないように、本当にすべき時がきた。
筆者お断り 隔週連載ですから本当は9月23日に掲載すべきものですが、筆者出張その他の事情により早めにひとつ記事を載せておくことにしました。話題はそれに応じてこんなものに。
(wikipedia参照)