ぶどう栽培から醸造までホテルが一括管理し、オリジナルワインの生産へ!
2009/02/26 小山田貴子
至れり尽くせりの空間。それでも足りないものって?
山梨県北杜市小淵沢町。高原リゾートというと軽井沢や清里に注目が集まりがちだが、ここ小淵沢は東京からなら電車でも車でも約2時間で到着するリゾート地である。そんな小淵沢に1992年に誕生したリゾートホテルが「リゾナーレ」である。
JR小淵沢駅から送迎バスで3分。雄大な八ヶ岳のパノラマの歓迎を受けながら到着した。同ホテルは、イタリア・インダストリアルデザイン界の巨匠として知られるマリオ・ベリーニが、中世の山岳都市をイメージしてデザインしたという。ホテル内を散策すると、円錐形の建物が現れる。その奇抜ともいえるフォルムと連なる山々 とが清涼な高原の空気に映え、思わずウンベルト・エーコの「薔薇の名前」の修道院を重ね合わせてしまった。
同ホテルには、南アルプス・八ヶ岳が一望できる宿泊施設はもちろん、レストラン、チャペル、スパ&プール、温浴施設、そしてカフェやブックストア、ブティックなどから成るショッピング街が集結している。開業は前述の通り1992年だが、2001年に運営が星野リゾートにかわってからは、その充実振りがさらに発揮されてい る。
メインダイニングは、政井茂シェフが腕を振るうイタリアン「OTTO SETTE」(オットセッテ)。地元の食材を使ったスタイリッシュな料理を提供する。巨大なワインセラーにはイタリアワインのみならず、秀逸な国産ワインやシャンパーニュも充実している。日が沈んでからは、露天温浴施設「もくもく湯」に行くのがオススメ。ゆらゆらと立ち上がる湯けむりの中、空を見上げると無数の星を見るこ とができ、なんとも神秘的である。
つまり、何が言いたいかというと、このホテル着いたなら、施設から一歩も出ることなくすべてがまかなえてしまうということである。しかもすべてが贅沢に……。
しかし、それでも「何かが足りない」と2006年8月、星野リゾート・八ヶ岳のスタッフとして一人の女性が入社した。池野美映さんである。
初めて会ったときは、服装はラフであったが「敏腕の美人営業マネージャーかな」と思うほど笑顔がチャーミングで、気勢にあふれる女性と感じられた。そして彼女と挨拶をしたとき、「何か足りないもの」がすぐにわかった。名刺に「ワインプロジェクト ディレクター」と刷り込まれていたからで、「足りないもの=ワイン」だったのだ。
今リゾナーレでは、自社でワインを生産するプロジェクトが稼動し始めていて、その責任者として池野さんが起用されたのである。
「ワイン特区」認定が追い風に!
経済誌の編集をしていた池野さんは、もともと「人が好き」「自然が好き」「文化が好き」。それらを集約していった結果、行き着いた先がワインであったという。そうなれば行動は早い。
フランス国立モンペリエ大学で栽培醸造学を3年間学び、フランス国家資格ワイン醸造士(D.N.O)を取得。その後ブルゴーニュなどの醸造所に勤務して帰国。そして、リゾナーレのプロジェクト参加となったわけだ。
「ワインプロジェクト ディレクター」という肩書きだけでは、ピンとこない人もいるかもしれない。基本的には、ぶどうを育てるところからワインにするまでの全般を手がける仕事とのことだ。ぶどうが収穫されるまでは畑と格闘し、収穫されたら今度はワイナリーでワインを仕込む。これはもう、想像を絶する知力と体力を必要とする仕事なのである 。そんなわけで、ワインを造るにはまずぶどうありき、である。山梨といえば、勝沼という日本ワインの銘醸地があるように、ぶどう栽培には適しているはずだ。さらに、2008年11月11日、同ホテルがある北杜市が「ワイン特区」に認定されるという追い風も。つまり、最低製造量の規制が緩和されたため、自家栽培・自家醸造で質 のよいワイン造りが可能になったのである。
完全自社生産のワインを目指して!
ホテルから車で10分ほど下った下笹尾地区。ここにリゾナーレが管理するぶどう畑がある。標高750m。甲斐駒ケ岳、八ヶ岳、晴れた日なら富士山まで見渡せる高台である。日照量は日本一。何より寒暖の差が大きいため、ph、酸、糖のバランスよいぶどうが採れるという。土壌は関東ローム火山灰であるが、池野さんは土壌よりも、 「この気象条件でどの品種を植えるか」が重要だという。
ここに、もともとNPO法人が植えていたシャルドネ、メルロー、ヤマトナデシコの600本の苗に加え、ピノ・ノワール、シャルドネ、メルロー(2007年に3,300本、2008年に2,200本)をリゾナーレが新たに植えた。そして2010年、いよいよリゾナーレの敷地内にワイナリーが完成する予定となっている。最終的には年間130,000本のワイ ン生産を目指し、自社畑だけで採れたぶどうを使うというリゾナーレ独自のワイン造りが着々と進められている。
何もかもが揃っている完璧なホテルかと思われたリゾナーレ。そんな中でも同ホテルで働く人々が「何かが足りない」と感じていたのは、「地元の物産を販売し、八ヶ岳文化を発信することで地域の活性化につなげること」ということだったのだ。その手段として、地域性を生かしたワイン造りが選ばれ、そして2010年にリゾナーレ は"ワイナリーリゾート"として生まれ変わるのである。