2010年11月18日 DIAMOND online 辻広雅文 [ダイヤモンド社論説委員]
「この国のかたち」を決める選択を、日本経済を構成するおよそ10%程度の既得権集団が左右していいものだろうか。
環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を巡って、農家と農家に関わる数多くの企業、団体、政治家、官僚が必死の抵抗を試みている。
日本の国内総生産(GDP)における農業の比率は、わずか1.5%に過ぎず、極めて小さい。ただし、関連産業が多数存在する。土木、建設、機械、肥料、飼料…それらすべてを合計すれば、「GDPの10%程度に膨れ上がるだろう」と浦田秀次郎・早稲田大学院教授はみる。
このGDP10%の構成員たちは、政治においてはその数倍もの力を発揮する。彼らは主に地方に根を張っており、全国農業協同組合連合会(農協)を核として結束力が強く、選挙における投票率も高い。自民党政権時代には、地方出身の農林族を支配し、農林水産省を含めて既得権のトライアングルを構成し、強力な存在感を発揮した。
近年は、就農人口の減少に加え、政権交代などで農協の組織率の低下とともに政治力に陰りを見せていたのだが、「TPPを絶好のチャンスと捉え」(官邸関係者)て、農業関係者の危機を煽り立てることで再び結束、圧力団体としての力を取り戻しつつある。その凄みに、にわかに菅政権がたじろいでいる。
復習しておこう。
TPPの最大の特徴は、関税撤廃に原則として“例外を設けない”ことにある。原則100%の貿易自由化なのである。この点が、二か国・地域間で結ぶ自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)と決定的に違う。FTAはモノやサービスなどの貿易上の関税などの障壁を取り除く協定だ。EPAはFTAを柱に、さらに労働者の移動の自由や投資規制の撤廃などを盛り込んだ協定である。
だが、ともに“例外が認められる”。実際、貿易総量のおよそ10%は例外である。日本は数多くの国々とEPAを結んでいる。それでもコメの777%をはじめとして数多くの農産物が高関税で守られているのは、この例外規定のおかげである。だが、TPPでは原則認められない。安いコメが大量に入ってくる。だから、農業関係者が反対運動に狂奔するのである。
TPPは現在、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの小国4か国ですでに稼働中である。そこに、米国、オーストラリア、ペルー、マレーシア、ベトナムが参加交渉を開始した。大国である米国の参加表明で、TPPはがぜん、注目を浴びることになった。
米国の意図は言うまでもない。オバマ政権が掲げる「輸出倍増計画」を達成するには、自由貿易圏として成長著しいアジア圏を取り込むことが必須だからである。米国の参加は、他国にとっては巨大な輸出市場の出現である。こうして、9か国が交渉に入っている。この9か国のGDP合計は世界の28%(といっても、米国が20%を占めるのだが)に達する。
実は、TPPは通過点に過ぎない。ゴールはアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)である。FTAAPは、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の21カ国・地域が参加する自由貿易協定構想である。実現すればロシア、カナダ、韓国なども含む世界人口の40%、世界のGDPの50%を抱え込む巨大経済圏となる。FTAAPにいたる3つのロードマップの一つとして今、TPPが最も注目されているのである。
ちなみに他の2つは、上図にある「東南アジア諸国連合(ASEAN)+3(日本、中国、韓国)」と、それにインド、オーストラリア、ニュージーランドを加えた「ASEAN+6」である。
つまり、TPPに参加しないと判断することは、FTAAPにも入らないということである。それは、グローバル資本主義に生きる道を捨て、いわば鎖国の決断をすることと同義であろう。冒頭に「この国のかたちを決める選択になる」と書いたのは、そういう意味である。
菅政権はTPPへ参加するか否かを、来年2011年6月に決定する方針だ。前述したように、9か国はすでに交渉を開始しており、3回の会議を終えている。さらに6回の会議が設定され、来年10月には合意に至るスケジュールだ。とすれば、日本が来年の6月に参加を決めたとしても、交渉は終盤に差し掛かっている。だから、日本の主張を反映するには、遅すぎる。日本の参加表明を歓迎している9か国にしても、本音ではもっと早く決めてほしいと思っているだろう。
国際交渉に乗り遅れそうなほど参加成否の検討に時間がかかるのは、いうまでもなく抵抗する農業対策のためである。政府は農業構造改革推進本部を設置、来年6月に政策決定を行うことにした。
たとえば、農水省はTPPに参加すれば低価格の農産物の輸入急増によって、日本の農業は11兆6000億円の損失が生じ、340万人の雇用が失われると試算している。
一方、経済産業省はTPP不参加ならば、2020年の時点でGDP10兆5000億円が減少し、81万2000人の雇用機会が失われる、としている。逆に、TPPに参加すれば、自動車や電子製品といった日本が国際競争力を保っている分野の輸出が拡大し、GDP10兆5000億円と81万2000人の雇用が得られるということである。
農業保護に固執する農水省と自由貿易促進の経済界を代弁する経産省に対し、内閣府はTPP参加で得られる利益と損失を差し引けば、2兆4000億円~3 兆2000億円のGDP増加が望めるとしている。多くの専門家は、「内閣府の試算は中立的で、妥当なもの」(浦田・早大大学院教授)として受け止めている。
そうだとすれば、このGDP増加分はさまざまな経路で全国民に還元されることになる。全体の利益という立場に立てば、TPPに参加しないという選択肢はないのである。
ただし、長期的には全国民に利益をもたらすことにはなるが、短期的には非常な痛みが局所に発生する。兼業農家、とりわけ第二種兼業農家では損失が発生する。第二種兼業農家とは、全収入の50%以上を農業以外から得ている農家である。彼らは低価格の輸入農産物に対してまったく競争力を持っていないから、おそらく撤退、廃業、失業に追い込まれることになる。
だが、それは農業を救うチャンスにも変わる。
なぜ、兼業農家が競争力を持っていないか。過去数十年に渡って、日本はコメ、小麦、酪農製品などに高い関税をかけ、農地所有者を税制で優遇することで保護した。規制強化によって守られた産業は、例外なく生産性を下げ、イノベーションを欠いて、競争力を落とす。とりわけ、固定資産税や相続税を大幅に軽減されている既得権を最大限に生かそうと、休眠地や農作放棄地を抱え続けた農家の堕落ぶりはひどく、さまざまなメディアに取り上げられている。それが、農業以外の収入のほうが大きく、農作をしなくても生活に困らない第二種兼業農家である。
かねて日本の農業には構造改革の必要性が叫ばれてきた。小規模農地、休耕地、農作放棄地を集約し、土地の大規模化を図り、専業農家にモチベーションを与え、新規参入を緩めて競争を刺激し、生産性を向上する――。一言でいえば、兼業農家には農業をあきらめ、土地を拠出してもらうことが、構造改革である。
世界の先進国いずれもが戦略的に進めた農業の構造改革を、日本は自らの手で成しえなかった。これからも同じであろう。既得権に縛られたまま、農業の弱体化はさらに進み、壊滅の危機に瀕する。自力でそれを回避できないのであれば、外圧を利用するしかない。その格好の外圧が、TPPである。TPP参加によって兼業農家は苦境に陥るかもしれないが、農業全体は救われ、活性化のチャンスを得られるのである。
この兼業農家を中心とする被害を最小限にすることが今、政府に突き付けられている難題である。だが、仮に単純な所得補填政策――所得がそれほど減らない第二種兼業農家も少なくないだろう――をしたとしても、財政の悪化が進むだけで、日本が直面している課題の解決にはならない。
日本経済の停滞の主要因は、潜在成長率が低下し続けていることにあり、今や1%を切っているとみられている。その原因はさまざまだが、主因は労働人口の減少と生産性向上の停滞にある。そうだとすれば、減少し続ける労働資源を生産性の高い産業分野に集中する政策こそ必須なのである。
この観点から、二つのことが言える。第一は、生産性の低い分野から生産性の高い分野に労働資源を移転させることが必要であり、そのためには、生産性の低い分野は輸入によって代替してもらうという選択が有効である、ということだ。生産性の低い分野に労働力をとどめておくことは、今の日本にとってとんでもない無駄遣いだ。その生産性の低い分野の典型が農業なのである。TPP参加は、輸入拡大の最も有効な政策となる。日本人は輸出には非常な関心を持つが、輸入に関してはあまり深く論考しない。この点は当コラムの【第109回】「 “輸出が大好きな日本人”が自覚できない欠落」を参照してほしい。
第二は、労働市場改革が必要である、ということだ。生産性の低い分野、つまり廃業などによって浮いた兼業農家の労働力を、生産性の高い分野に移転、誘導するには、日本の労働市場の硬直性にメスを入れ、流動性を豊かにする仕組みが必要だ。そのためには、さまざまな制度の改変が必要となる。これもまた、日本のタブーにメスを入れる構造改革となる。
最後に付け加えたい。
TPPからFTAAPに至る道のりは、「新しい国際制度を構築する試みでもある。それは自由貿易にかかわる制度だけではなく、たとえば各国国内法である独占禁止法や知的財産権に関わる法制度を包括的に組み込む作業になる」と、浦田・早大大学院教授は強調する。
グローバル資本主義の公正、公平、成熟を高める制度設計ともいえる新しい国際作業に参加せず、知的格闘もなく、自国の主張も反映できないとなれば、それは独り鎖国するということである。日本企業はとても戦えまい。日本から国際競争力のある企業は、相次ぎ脱出するであろう。
開国か鎖国か――ワンフレーズによる二分法は上滑りの熱狂を招くという危険は十分に承知しているけれど、日本にとって、この選択を掲げて総選挙に打って出るほどの分かれ目だと思われる。
http://www.donkigroup.jp/shared/pdf/news/co_news/343/beaujo2010_2_l9J0z.pdf
http://www.donki.com/season/beaujo/pc/
ドン・キホーテ (企業)
http://ja.wikipedia.org/wiki/ドン・キホーテ (企業)
ドン・キホーテがお届けするのは、フランス・ボジョレー地区の名門ネゴシアンから仕入れた、オリジナルの「ボジョレー・ヌーヴォー」です。ロマネッシュトラン近郊のガメ種のみを使って作られ、葡萄の香り豊かに、そして新鮮なままに閉じ込めた1本です。昨年に引き続き、今年もペットボトル製の容器を導入。軽いから、持ち運びにもとっても便利で、ご自宅用やお土産用に、お気軽に今年の新酒の出来栄えをお楽しみいただけます。
生産を行ったロベール・サロー社(フランス)の醸造責任者Mr. Laurent Dennhautによれば、今シーズン始めは例年よりも寒かったものの、8月下旬に入ってから好天が続き、葡萄の成熟が進んだとのこと。フルーティで活気のある香りと、ほど良いタンニンを兼ね備えた、魅力的なワインに仕上がっています。色は昨年より若干明るめのピンクがかった赤。まさにワインの若きエトワールといった趣きです。
葡萄栽培、醸造、ボトリングまで一貫した生産・管理体制を敷き、すべてドン・キホーテのワイン担当バイヤーが直接吟味しました。8月に現地を訪問した際は、葡萄の収穫間際という時期で、たわわに実っていた紫色の果実が、3ヶ月経ったいま、どのような新酒に生まれ変わっているのか、私たちも楽しみでなりません。
ボジョレー地区は、フランスの南東部・リヨンの北にあり、美味しいワインの産地として知られています。「ボジョレー・ヌーヴォー」とは、そのボジョレーで造られた、その年の葡萄の出来栄えをチェックする「試飲用新酒」のこと。 それぞれの国の現地時間で、11月の第3木曜日の未明(午前0時)に販売が解禁されます。日本は時差の関係で、主要な先進国の中でも最も早く解禁時間を迎えるといわれています。
「ボジョレー・ヌーヴォー」は単なる新酒ではなく、その製法自体にも他のワインと違った大きな特徴があります。その製法は「マセラシオン・カルボニック」という、収穫した葡萄を破砕せず、そのままタンクの中に貯蔵・発酵させ、短期間でワインとして完成させるというもの。この製法で造られたワインは、タンニンの含有量が少ないため、渋みや苦みも軽くなります。よって、新酒の状態でも飲める味わいに仕上がり、葡萄のフレッシュな魅力を楽しめるというわけです。
ボジョレーといえば「赤ワイン」。しかし実は、全体のわずか1%ではありますが、白ワインも生産されているのです。「ボジョレー」と名乗ることのできるワインは、赤ワインであれば「ガメ種」、白ワインであれば「シャルドネ種」の葡萄を使用したものに限定されています。
(wikipedia参照)