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未来を拓く(中山間地)―若手生産者の挑戦(3)―

新潟日報 1月7日

 海岸にせり出した山の合間に棚田が点在する上越市西部の谷浜・桑取地区。同地区で有機農業を営む農業法人「じょうえつ東京農大」の職員小泉和弘さん(27)は初めて訪れた2006年、遠目にはのどかな棚田が、生い茂る草木で荒廃した状況に衝撃をうけた。

「誰かが手を加えないと、農村の原風景が失われてしまう」。実家は小千谷市の同じ中山間地。故郷と重なって見えた。「自分たちの力で農地を再生したい」。熱い思いが湧いてきた。

東京農大教授の藤本彰三さん(60)=上越市出身=を中心とするプロジェクトチームが当時、典型的な中山間地の同地区で有機栽培実験を行っていた。小泉さんは、はびこった草木の根を重機で掘り起こしては繰り返す耕す開墾から参加。08年、藤本さんが社長になり設立した同法人の職員として腰を据えた。

同地区は昭和30年代、県営開拓事業で180ヘクタールの農地が造成された。近年は高齢化の進行と後継者難のため、30%が耕作放棄されている。同法人はこのうち約10ヘクタールを地元農家から借り受け農業に参入。付加価値の高い有機栽培を軸に、中山間地でも成り立つ農業経営モデルの確立を目指す。

小泉さんと同様に東農大を卒業した職員・研修生ら5人が常駐する。全農地で有機JAS認証を取得。通年でコシヒカリやソバ、カボチャなど有機作物13品目を生産するまでになった。ネット販売など首都圏を主なターゲットとする。

ただ有機栽培ゆえの雑草防除や害虫駆除、機械に頼れない棚田での作業と苦労は絶えず、経営課題も多い。コメ収量は10アール当たり250キロ〜300キロと慣行栽培の半分ほど。販売価格は1キロ800円と高めでも収量の少なさをカバーできない。3期目の10年度も赤字見込みで、経営安定化はなお途上だ。

「ほ場には地力の差もあり、有機で収量が安定するには最低5年掛かる」と藤本さん。「良質な水と有機栽培による付加価値を評価してくれる人は必ずいる。PRを強化し、需要を発掘すれば可能性は広がる」と焦らず構える。

東農大ブランドも活用し、OBら関係者からの口コミ効果も期待。12年度には黒字転換を目指す。食の安全性を最大の売りにしてコメ、野菜、加工品の3本柱による経営を確立できれば、環太平洋連携協定(TPP)への参加判断がどうなろうと、耕作放棄地再生を含め中山間地の生き残りにつながるという。

同法人の試みは実際、地域への刺激となっている。徐々によみがえる農地を見た地元農家が「オラも負けずに頑張らねえと」と奮起する。

小泉さんは、生産効率だけでは語れない人の温かさや農村文化の魅力も肌で感じた。「瀕死の田畑から再び作物が実る。その喜びは格別だった。僕らを快く迎えてくれた地域のために恩返しをしたい」。まっすぐな視線で語った。

 

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