北陸農政局主催で開催した「北陸地域の水稲の品質に関する検討会」において、22年度の米の品質に影響を与えた要因、今後の技術対策等について意見交換を行いました。
北陸農政局として、意見交換を踏まえ「北陸地域における平成22年産米の品質の概要と今後の対応方針」をとりまとめましたので公表します。
概要
1月13日、北陸農政局主催で、各県、全農、中央農業研究センター北陸研究センターの担当者に参集いただき、新潟県自治会館において「北陸地域の水稲の品質に関する検討会」を開催し、22年度の米の品質に影響を与えた要因、今後の技術対策等について意見交換を行いました。
北陸農政局として、意見交換を踏まえ「北陸地域における平成22年産米の品質の概要と今後の対応方針」をとりまとめましたので公表します。
1、 気象の概況
4月及び5月(中旬~下旬)が低温・寡照に推移したが、6月から8月を通して気温が高く推移した。特に梅雨明け(7月中旬)以降は、太平洋高気圧に覆われて、晴れた日が多くなり、気温は平年よりかなり高く、降水量は少なく、日照時間は多くなった。
2、 平成22年産米の品質概況
記録的な猛暑の影響から北陸地域においても基部未熟粒、背白粒及び腹白粒が多く発生し、1等比率が大きく低下した。
【参考】平成22年産米(水稲うるち玄米)の検査結果
(平成22年11月30日現在)
1 等比率2等以下に格付けされた理由
過去5カ年平均
北陸42%(うちコシヒカリ39%) 81% ①心白・腹白②整粒不足
新潟21%(うちコシヒカリ21%) 80% ①心白・腹白②整粒不足
富山63%(うちコシヒカリ58%) 83% ①心白・腹白②整粒不足
石川68%(うちコシヒカリ66%) 82% ①心白・腹白②整粒不足
福井85%(うちコシヒカリ85%) 84% ①カメムシ類②心白・腹白
注:過去5カ年平均は、17年産から21年産の同時期の検査実績の単純平均である。
3、 品質に影響を与えた主な要因
22年産米の品質低下は、管内各県からの報告をまとめれば、以下のように、気象要因を主要因としつつ、栽培管理上の要因なども加わって発生したと考えられる。
一方、それを軽減したと思われる要因も見受けられた。
(1)気象要因
4月及び5月(中旬~下旬)が低温・寡照に推移したことにより、例年に比べ茎数が少なく丈が長くなった。そのような状況で7月上旬以降9月まで異常高温が続いたことにより、籾へのデンプンの転流・蓄積が十分に行われなかった。(新潟県、富山県、石川県)
連続無降雨日数が多かったことも品質低下を助長した。(新潟県)
例年は登熟期間の最低気温が徐々に下がっていくが、22年はむしろ上がっていくような過去にない気温の推移であった。(新潟県)
出穂後の20日間の平均気温よりも、むしろ最低気温の低い地域の品質が良い傾向が見られた。(富山県)
6月中旬以降の高温に伴い地力窒素の発現が高まり、穂数不足の補償作用と相まって1穂籾数が大幅に増加し、㎡当たり籾数が過剰になった。その結果、穂揃いが悪く、稔実の劣る穎果が多くなった。(石川県)
8月下旬から9月初旬の気温は、特に夜温が高く、夜間の呼吸消耗などに影響したと考えられる。また、初期生育が悪かったため、収量にも影響したと考えられる。(北陸研究センター)
気温と飽差(乾きやすさの指標)の関係についても、高温と乾燥ストレスの視点から検討が必要。(北陸研究センター、福井県)
(2)栽培管理の要因
① 田植時期
5月中旬に田植えが行われた地域においても、7月上旬から9月上旬頃まで異常高温が続いたことにより、高温下での登熟を回避できなかった。(富山県)
適期田植えにより過剰分げつが抑制され、有効茎数歩合が向上した。穂数は少なめ、一穂籾数の増加により、総籾数はほぼ目標数値となり、未熟粒や胴割粒の発生が抑制され、高温による品質低下が抑制された。(福井県)
② 中干し
分げつの発生が遅れたため、中干し適期となった時期にはすでに梅雨入りし降雨日が多くなったことから、中干しが不十分となったほ場が多かった。(富山県、石川県)
茎数が少なく推移したことから、中干し開始の盛期が遅く、中干し期間が長くなった。(新潟県)
③ 施肥管理
7月時点での稲体の状況(草丈、葉色)から倒伏が懸念され、1回目の穂肥は控えめの施用となったが、出穂前の急激な葉色の低下がみられ、2回目は確実に施用した。出穂期以降の連続した高温と無降雨により、稲体活力が低下し、品質低下の一要因となったと考えられる。(新潟県)
倒伏が懸念される一方、高温下での稲体活力の低下が予想されたため、分施体系においては、1回目の穂肥は慎重に、2回目の穂肥は確実に施用された。状況に応じて、3回目の穂肥(出穂後)も施用され、穂揃期の葉色は概ね適正値に誘導された。(富山県)
適期田植えにあたりコシヒカリの基肥を減肥し、初期の過剰生育、及び籾数過剰を抑制した。また、基肥一括肥料の普及や穂肥量が適正量であったことも品質低下の抑制につながった。(福井県)
④ 水管理
出穂後20日間の湛水管理の後、収穫の5~7日前までかん水を継続した圃場の方が、品質が良い傾向がみられた。(富山県)
田植え後の低温や強風を意識した深水管理が継続されたことにより、初期分げつの発生が妨げられた。(石川県)
8月中旬に降雨があり大きな水不足が発生した地域はなかった。登熟期の間断通水の実施は可能であった。用水のパイプライン化が進んでおり、水温は低く、稲体を冷やすのに効果があった。(福井県)
(3)品種の要因
高温耐性をもつ品種であっても、本年の猛暑はその能力を超えた高温条件であったと推察される。(新潟県)
てんたかく(早生:富山県)、ゆめみづほ(早生:石川県)、ハナエチゼン(早生:福井県)は、能力を発揮したと考えられる。
4、 今後の技術対策
各々の地域における土壌、地形、水利等の条件を踏まえた上で、以下のような対策を講じる必要があると考えられる。
その際、本年度の気象条件のように、単独の対策ではその効果が十分に発現しないことも想定されることから、気象状況、生育状況等を踏まえ、以下の対策を総合的かつ柔軟に講ずる必要がある。
(1)5月中旬を中心とした田植えの実施
近年、地球温暖化により出穂・登熟時期が高温になり障害が発生していることから、出穂・登熟時期を遅らせ高温による障害発生リスクを軽減するため、5月中旬を中心とした田植え及び適期の直播栽培を推進する。
(2)健苗の育成と適正栽植密度の確保、過剰生育の抑制
種子更新及び育苗期の適正な水管理や温度管理等により健苗を育成する。また、移植時には、適正な栽植密度を確保するとともに、中干しを徹底し無効分けつを抑えるなど、過剰生育(籾数の過剰、倒伏)を抑制する。
(3)土壌診断等に基づく適正施肥の徹底と葉色等の生育診断による穂肥の的確な施用
土壌診断等により地力の実態(N-P-K)を把握し適正施肥に努め、葉色、幼穂長等により、地力窒素の発現状況を把握し穂肥を適期に施用する。
農林水産省では、土壌診断に基づく適正施肥の徹底等の取組を支援するため23年度も「施肥体系緊急転換対策」を行うこととしているので活用されたい。
(4)幼穂形成期から成熟期にかけての適正な水管理の徹底
幼穂形成期から登熟後半まで稲体の活力の維持のため、気象の状況を見ながら地域の実情に合わせ、飽水管理等の適切な水管理を行う。
(5)適期刈取と適正な乾燥・調製の実施
出穂後の積算温度、籾の黄化程度及び籾水分を確認し、適期に刈り取りを行い、乾燥温度に注意し、胴割米や過乾燥米の発生を防止する。
(6)適正な作土深(15cm以上)の確保及び土壌診断に基づく堆肥や土づくり
資材などの施用による土づくりの実施高温のみならず、冷害にも耐えられる緩衝力をつけるため、根域の拡大につながるよう深耕し、土壌診断に基づき堆肥や土づくり資材などの施用による土づくりを積極的に実施する。
(7)高温耐性品種の導入・普及、品種構成の適正化
品質向上、危険回避のため、新たな高温耐性品種の導入や高温耐性品種の普及拡大を図り、また、早生、中生、晩生の品種構成の適正を図る。
(8)生育情報、栽培管理などの速やかな情報提供の実施
生育情報や栽培管理の注意点などを、インターネットや広報紙等、地域の実情に合わせ速やかに農家に情報提供を実施する。
5 農政局としての今後の対応方針
(1)検討会終了後も引き続き管内各県との情報交換を行い、情報収集・分析と情報の共有化に努める。
(2)農林水産省では、高温障害を回避する技術について検証を行い、農業技術の基本指針等に反映させるとともに、効果的な技術の普及・推進に努める。
(3)上記「施肥体系緊急転換対策」の的確な推進を行う。
<添付資料>(添付ファイルは別ウィンドウで開きます。)
北陸地域における平成22年産米の品質の概要と今後の対応方針について(PDF:18KB)
http://www.maff.go.jp/hokuriku/news/press/pdf/110131-01.pdf
生産経営流通部農産課
担当者:農政調整官 中西
代表:076-263-2161(内線3320)
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FAX:076-232-5824