林原
http://ja.wikipedia.org/wiki/林原
J-CASTニュース 2月11日(金)
万一、全国の店頭から菓子や冷凍食品、さらには医薬品や化粧品などが消えたら、市場がパニックとなるかもしれない。そんな悪夢が脳裏をよぎる深刻な事態が起きた。
バイオ関連企業の「林原」(本社・岡山市)が会社更生法の適用を東京地裁に申請したからだ。これは単なる地方の有力企業の倒産とは次元が異なる。
■甘味料などに使われるトレハロースの世界生産をほぼ独占!
林原は甘味料などに使われる糖質「トレハロース」や抗がん剤「インターフェロン」を量産する世界的なメーカーで、トレハロースの世界生産をほぼ独占しているのだ。トレハロースの取引先は全国で約7000社、製品は約2万品目にのぼるうえ、「他の代替がほぼ不可能」というだけに、食品業界などへの影響が懸念されている。
トレハロースは、同社によると「食品の乾燥や傷みを抑えたり、うま味を引き出したりするなど数多くの特長をもつ」という。クッキーなど菓子類の甘味料としてだけでなく、冷凍食品の劣化低減、野菜ジュースの苦味抑制などに役立っている。さらには保水性に優れることから、機能性繊維や医薬品、化粧品などにも素材として幅広く使われているという。
菓子メーカーでは江崎グリコ、繊維メーカーではシキボウ、化粧品では常盤薬品工業、富士フイルムなどが林原のトレハロースを使用している。いずれも「当面の在庫は確保している」としているが、万一、林原の供給がストップするような事態となれば、各社の生産に影響が出るのは必至だ。
■美術館、自然科学博物館の運営、恐竜の発掘調査なども展開!
地方のバイオ関連企業が、これだけ多分野に波及する素材を独占的に生産していること自体が驚きだが、これが現実なのだ。林原は1883年に水飴製造からスタートし、「他社がやらない、他社ではできない独自のテーマで研究を行う研究開発型企業として歩んできた」(同社)という。
しかし、今回は独自性の強い企業文化が裏目に出たようだ。帝国データバンクなどによると、林原はトレハロースやインターフェロンを量産することで、バイオテクノロジー企業として認知度を高めたが、運輸・倉庫業、ホテル経営、飲食業など事業の多角化を推進。美術館、自然科学博物館の運営、恐竜の発掘調査などメセナ活動も展開したため、「研究開発投資と不動産投資などで、年間売上高を大きく上回る借入金が経営を圧迫していた」という。
■中国銀行自身の審査態勢が問題となる可能性!
非上場の同族企業である林原は、経営面で外部のチェック機能が働かなかったため、長年にわたり粉飾決算を続けていたことが判明したほか、オーナー一族へ違法配当が行われていた疑いも浮上。捜査当局も一連の不正に関心を示しており、刑事事件に発展する可能性もある。
林原のメインバンクは地元・岡山の中国銀行で、林原が同行の筆頭株主となるなど、「両社は持ちつ持たれつの関係」(地元関係者)だった。中国銀行は、つなぎ融資を林原に行うとしているが、長年にわたる粉飾決算が判明したことで、中国銀行自身の審査態勢が問題となる可能性もある。中国銀行以外の取引金融機関は林原への不信感を高めている。林原は「会社更生手続は事業継続を目的としており、商品の安定供給は確保できると考えている」としているが、果たして甘味料など素材の供給が順調に進むのか。林原の再建問題からは目が離せない。
◇緊急リポート (上)もろ刃の剣、強みの研究で負債拡大!
山陽新聞 Web News
「世界一の研究所を作り、世界一のものを生み出すのが有益だと信じてまい進した結果、借入額が膨らんでしまった」
林原(岡山市北区下石井)が会社更生法の適用を東京地裁に申請した2日夜、林原健前社長=同日付で辞任=は、弟の靖前専務=同=とともに本社で会見。経営破綻に至った経緯を説明した。
費用回収に時間
林原は1883(明治16)年に水あめ製造の「林原商店」として創業した。昭和30年代、デンプンに酵素を働かせブドウ糖をつくる技術の工業化に成功、「研究開発型企業」として歩み始めた。その後も抗がん剤「インターフェロン」や、感光色素によるユニークな医薬品「錠剤ルミンA」などを独自技術で生産。中でも、世界で初めて量産化に成功し、低価格化を実現した天然糖質「トレハロース」は食品、化粧品業界などに浸透。わが国を代表するバイオ企業としての地位を確実なものにした。
こうした林原の武器「研究開発」が、皮肉にも破綻の最大の要因になった。
非上場の同社の場合、研究開発費などの調達は金融機関の融資が頼み。ピーク時には約1600億円を借り入れ、現在も約1300億円に上る。会見で靖前専務は「製品が出てくるまでに長く時間がかかり、それまでの売り上げはほぼゼロ」と話した。84年以降の売り上げや売掛金の過剰計上など今回明らかになった不適切経理は、投下した費用の回収までのタイムラグを埋め、研究を進める融資を得るためだったとみられている。
JR岡山駅南の5万平方メートルの所有地や株式など膨大な資産も結果的に経営悪化の背景となった。バブル絶頂期には、資産価値が高く評価され「銀行から喜んで貸してもらえた」(靖前専務)ため、借り入れが増加。バブル崩壊後の地価下落などで資産と借入金のバランスが崩れた。
「再建できる」
研究開発と並び同社を象徴づけた林原兄弟を中心とした同族経営も強弱併せ持つ「もろ刃の剣」となった。
林原前社長は大学在学中の61年、社長だった父・一郎氏の死去に伴い4代目社長に就任。バイオ企業として成長しても非上場を貫いてきた。株主から短期的な利益を求められず、長期的な視点で研究に打ち込める環境を維持するためだった。
多くの独創的な研究成果と実績を挙げてきた半面、「財務部門がお粗末だった。時間感覚が大企業に比べて長く、浮世離れしていたということかもしれない」と靖前専務。林原前社長が「一番欠けていたのは透明性」と省みた企業風土も、同族経営・非上場の“負の側面”として表れた。
林原は今後、更生法に基づいてスポンサー企業を募り、新経営陣の下で再生の道を探ることになる。保全管理人の松嶋英機弁護士は2日に同社の工場などを視察し、「製品は世界でも重要。必ず再建できる」と断言する。
「思いと現実がアンバランスになったのは不徳の致すところだが、悪いところばかりではない。良い点を伸ばし、地元から愛される企業として存続してほしい」。岡山の地で地域に密着し、林原をバイオ分野の世界的企業に育てた林原前社長は語った。
◇ ◇ ◇
林原が「事業再生ADR」による私的整理を断念し、グループの中核2社とともに会社更生法の適用を申請した。負債総額は1300億円超で、岡山県内の経営破綻では過去最大。岡山を代表する名門企業の経営がなぜ行き詰まったのか。背景と影響を探った。
ズーム
会社更生法 企業の経営破綻を処理する法律の一つで、破産などの「清算型」とは異なり、事業の再建を目的とした法律。同じ「再建型」の民事再生法よりも、しっかりとした枠組みで再建が進められるため一般的に大企業の破綻処理に適しているとされる。裁判所に選任された管財人が経営や財産の管理に当たり、更生計画を作成。計画に基づき再建を進める。昨年は日本航空、武富士などが適用を申請した。
(2011年2月4日掲載)
緊急リポート (下)波紋、影響免れないメセナ 岡山駅前の土地も焦点!
百貨店2店舗、博物館、オフィスビル、ホテル、マンション…。
林原(岡山市北区下石井)は2002年、同市中心部の大規模再開発構想「ザ・ハヤシバラ・シティ」を打ち出した。
「よそにはないものを」と林原健前社長=2日付で辞任=が描いた構想の舞台は、JR岡山駅南の自社所有地約5万平方メートル。総事業費約1500億円を見込み、当初は09年末までの開業を予定。進展は見られないまま現在に至った。
会社更生法の適用を申請した林原グループ。この一等地を含めた資産の処分も焦点だ。岡山商工会議所の古市大蔵副会頭は「岡山の街づくりの鍵を握る土地。切り売りされる事態を最も懸念している。地域の将来を考えた対応をしてほしい」と心配する。
事業存続を!
岡山を代表する名門企業の破綻に各方面で波紋が広がる。
食品の鮮度保持や保湿機能がある天然糖質「トレハロース」は林原の独自技術商品。国内7千社・2万種類以上の食品で使われ、海外でも30カ国以上に販売している。
和菓子製造・販売の廣榮堂(同市中区藤原)の武田浩一社長は「画期的な発明。菓子にしっとり感を出し、作りたての味を長く保つ欠かせない原料」とし、「供給が滞れば、生産に支障をきたす。再建を果たし、事業は存続していくと信じている」と訴える。
林原はこれまでに原材料の仕入れ先への支払いと、商品の安定供給を継続する意思を表明。メーンバンクの中国銀行(同市北区丸の内)は、林原グループの当面の資金繰りを支援するため40億円の融資枠を設定した。
林原の金融債務は約1300億円。各金融機関も相当の負担は避けられない。中国銀は、林原グループ3社への債権454億円のうち、198億円を11年3月期の第3・四半期決算で引き当て処理する。永島旭頭取は「当行の健全性を確保する上で全く問題ない」と影響を否定。林原の事業について「独自商品を持ち収益性がある。再生は可能と判断した」とし、再建を支援する方針を示した。
文化的貢献!
「地域に密着し、人と生命を見つめる」―。林原前社長の理念の下、林原グループは、地元・岡山で多彩なメセナ(社会貢献活動)や研究活動に取り組み、国内外に存在感を示してきた。
全国屈指の日本・東洋美術館として名品を集めた林原美術館。障害者のアート活動を支援する国際芸術祭“希望の星”を手掛ける林原共済会。恐竜や類人猿研究、備中漆、日本刀の復興事業など領域は多岐にわたる。
美術館や共済会は法的整理の対象外だが、運営費の大半をグループ内からの寄付に頼っており、影響は免れないとみられる。「多くの人材を岡山に集めたことも含めて、地域に果たした文化的な貢献は非常に大きい」。大原謙一郎・岡山県文化連盟会長は、その活動を高く評価した上で「核となる部分は何とか存続させてほしい」と願う。
更生法適用を申請した2日夜、林原本社で開かれた会見。保全管理人の松嶋英機弁護士は「(メセナは)岡山県、岡山市にとって重要な事業」とし、再建を支援するスポンサーには「そういったものも面倒をみてもらえるとなおいい」と述べた。
「地域密着でメセナに取り組んだこと自体は間違っていなかったと思う」。会見で林原前社長はメセナへの思いを吐露した。
「メセナ先進県」とされる岡山のイメージをリードしてきた林原。けん引役は代わっても、その理念と活動の継承が望まれている。
ズーム 林原グループ!
12法人からなり、中核は林原(食品原料など製造)、林原生物化学研究所(研究開発)、林原商事(販売)、太陽殖産(不動産管理)。太陽殖産を除いた3社が、会社更生法の適用を申請した。メセナ事業は林原共済会、林原自然科学博物館、林原美術館が中心。ほかに京都市の京都センチュリーホテルなど4関連会社と、米国に海外拠点法人が1社ある。
(2011年2月5日掲載)