地中熱
4月25日 オルタナ
「地中熱」を使えば、冷暖房の消費電力量を大幅に減らせる。これまで掘削やヒートポンプなど初期コストが普及のネックだったが、政府の方針で助成制度が急速に整ってきた。空港やスカイツリーなど大規模施設での導入も相次ぎ、国内に「地中熱利用」が広がりつつある。
地下の温度は年中安定していて、例えば東京なら常に約17℃だ。夏は涼しく冬は暖かい。地中熱利用のエアコンは、空気熱源のエアコンの約半分しか電力を消費しない。暖房以上に冷房での節電効果が大きく、排熱を外気に捨てないためヒートアイランド現象の緩和にも貢献する。
火山地帯を約2000m掘って高温の蒸気や熱水で発電する「地熱」利用と異なり、比較的浅い地下にある空気や水の熱を空調や給湯、融雪などに使うのが「地中熱利用」である。熱源杭を打ち込む工事は早ければ1日で終わる。新築ビルの場合は基礎杭も活用できる。
日本の設置総数は2009年までの累計で580件(環境省調べ)のみで、導入が盛んな米国、中国、北欧に大きく出遅れた。しかし最近になって、大型施設を中心に設置例が増えている。
2012年に完成予定の「東京スカイツリー」(東京都墨田区)周辺では、国内初の「地中熱を活用した地域冷暖房」が稼働する。地域冷暖房のCOP(エネルギー効率を表す係数)平均値0.75に対して同事業はCOP 1.35以上を実現する見込みだ。
スウェーデン家具の大型店舗を展開する「イケア・ジャパン」では、4月25日に着工する「IKEA福岡新宮」に同社初の地中熱利用設備を導入する。太陽光発電と合わせて、店舗全体の消費電力量の約3割を賄う予定だ。
その他、2010年にオープンした羽田空港の新国際線ターミナルや、東京駅前の東京中央郵便局跡地に建設中の「JPタワー(仮称)」にも、地中熱利用設備が導入されている。
NPO法人「地中熱利用促進協会」は、4月19日に協会ホームページで、緊急アピール「節電・省エネをお考えの皆様へ」を発表した。東日本大震災の影響で避けられなくなった節電対策について「切り札は地中熱ヒートポンプによる冷暖房です」と地中熱利用のメリットを訴えている。
補助政策と需要増で初期コストを抑えられれば、浮いた光熱費による回収期間を短縮できる。同協会の服部旭事務局長は「政府のエネルギー基本計画の中に再生可能エネルギーとして『地中熱利用』が取り上げられ、補助金が充実してきた。加速度的に普及が進む可能性がある」と期待を込める。
(オルタナ編集部=瀬戸内千代)2011年4月23日