揚水発電
2011年4月25日 週刊ダイヤモンド編集部
東京電力は、夏の電力供給力を5200万キロワット確保したと発表した。しかし、週刊ダイヤモンドの取材により、まだ少なくとも約500万キロワットの供給余地があることがわかった。そのカギは揚水式水力発電だ。企業が節電対策に追われるなか、なぜ東電は揚水発電の存在を公にしてこなかったのか。
「より揚水式水力発電の活用を図っていきたい」──。
本誌の再三の質問に対し、勝俣恒久・東京電力会長は4月17日の会見で揚水発電の活用を認めた。
そもそも、ある電力関係者は東電が試算する供給力不足の主張に、当初から首をかしげていた。「なぜ揚水発電をもっと盛り込まないのだろうか。堅く見積もり過ぎてはいないか」と。
東電の最大認可出力は、他社の権利分まで含めると7810万キロワットある。それに対し、震災の影響で夏の供給力の見通しは、3月25日時点で4650万キロワットしかなかった。その差は約3000万キロワットまで開いた。
だが本誌の取材では、東電のいう供給力には計15ヵ所1050万キロワットの揚水発電の供給力が盛り込まれていないことがわかった。
揚水発電とは、夜間の電力でダムの下の貯水池から水を汲み上げ、昼間に上の貯水池から水を流して電力を起こすもの。夜間の余剰電力を昼間の発電に利用することができるため、夏場の最大需要対策として最も適した発電方式だ。「本当にどうしようもないときの切り札中の切り札」(宮内洋宜・日本総合研究所研究員)とはいえ、夏の電力不足で各企業が節電対策に奔走するなか、“隠し玉”ともいえる存在になっていた。
4月15日になり、東電は「7月末時点で5200万キロワットの供給力を確保した」と発表したが、3月時点に比べ、新たに積み上がった550万キロワットのうち、400万キロワット分は揚水発電によるものである。
では、なぜ東電はこれまで揚水発電を供給力に入れなかったのか。
その問いに答える前にまず、東電の供給力について詳細を 明らかにしよう(上図参照)。
東電関係者への取材により、今年3月末時点で東電の最大認可出力と7月末の供給見通しの詳細が判明した。
最大認可出力は前述のように計7810万キロワット。うち原子力は、福島第1原子力発電所の事故や震災の影響などにより1330万キロワット分が使えない。
火力も設備が古く再起動できなかったり、夏場は気温の影響で出力も伸びなかったりするため、710万キロワットが見込めない。
一般水力も渇水で水量が足りなければ、出力を保てない。東電は100万キロワット減ると見る。ここまでで全体の3割の供給力を失った格好だ。これに他電力からの融通分などを加え、揚水発電を除いた供給力は4800万キロワットになる。
ただし、本誌がつかんだ揚水発電の1050万キロワットがある。前述したように、すでに東電は400万キロワットを供給力として当て込んだ。震災の影響で160万キロワットは見込めないとするが、それでもまだ490万キロワットも残されている。そのうち300万キロワットを生かすだけで夏の最大需要5500万キロワットを賄うことができる。
東電は「隠しているわけではない」とするが、なぜ揚水発電の存在を公にしてこなかったのか。
活用できる揚水発電を
東電が認められない理由
東電が揚水発電を供給力に入れない理由は、主に二つあるだろう。
第1に、揚水発電を行う夜間電力の確保の問題だ。東電の藤本孝副社長は、「(火力など)固定供給力によって揚水発電の利用が決まるため当初、見通しは立たなかった」と話す。
だが、「発電までの電力ロスは30%」(東電)なので仮に490万キロワットの電力を起こすならば、夜間に700万キロワットの電力が要る。前ページ下図に示すように「発電量は夜間の需給差と時間軸の面積で決まる」(東電幹部)。
そして実際、昼間の5500万キロワットの最大需要に対して、夜間の最低需要は3000万キロワット程度である。運用次第で夜間の電力は十分に活用できるだろう。昨夏、揚水発電だけで850万キロワット分稼働した実績もある。火力等の復旧が進めばさらに余裕が生まれる。
第2の理由は、家庭や企業に節電を促したいということだ。東電は国を巻き込み、需要を抑え込もうとしている最中である。特に4月末に向けて電力総量規制の導入も含めた節電対策を練っている今、発電時間の限られる揚水発電という解決策を自ら提示するより、利用者に節電してもらうほうがよいのだろう。加えて、原発に代わり火力を夜間も使い続けるのは、燃料費負担も増え、故障のリスクも高まる。老朽設備を動かしているならなおさらだ。
しかし、揚水発電の設備は現実として存在する。
勝俣会長自身、先の会見で「非常に古い発電所を再起動させ、24時間の運転が可能かチェックしてきたが、どうやら可能だ」と認めたのだ。
もちろん節電は大事だが、揚水発電の最大限の活用こそが電力不足を乗り切るカギとなる。その議論なしに企業や家庭に汗を流してもらおうというのは虫がよ過ぎる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)