2011/6/29 JCASTニュース
小笠原諸島と、岩手県平泉の文化遺産がユネスコの「世界遺産」に選ばれた。震災や原発事故で厳しい状況が続く国内では、久々に明るいニュースとなった。
今回の登録で、国内の他の候補地は「次は我々だ」と勢いづく。だが、観光化と遺産保護のバランスで、かじ取りの難しさを体感している世界遺産もあるようだ。
「暫定リスト」に富士山、鎌倉、富岡製糸場
世界自然遺産に選ばれた小笠原諸島は、2005年の知床(北海道)に続き国内で4番目となる。一方の平泉は、世界文化遺産として国内12番目の登録となった。特に平泉は、08年に申請をしたものの世界遺産委員会で「登録延期」が決議され、今回2度目の「挑戦」だった。岩手県は東日本大震災の被災地でもある。地元の喜びもひとしおだ。
世界遺産登録のためには、最初のステップとして国が作成する「暫定リスト」に載らなければならない。現在リストにあるのは、鎌倉や富士山、国立西洋美術館本館(東京都)など12件で、すべて文化遺産となっている。
1992年にリストに掲載された鎌倉は、2004年の中間報告書で「武家の古都・鎌倉」として「武家による独自の都市構造、武家社会、文化」という点をアピールすることを決定した。鶴岡八幡宮や円覚寺、鎌倉大仏といった寺院や神社、歴史的な建造物が含まれる。鎌倉市に隣接する逗子市や横浜市、神奈川県とも協力して、ユネスコへの推薦を待つ。
富岡製糸場(群馬県)は07年、暫定リストに掲載された。明治時代初期に建てられた「木骨レンガ造」が当時の状態をほぼ保ったまま現存しているのは、世界でもあまり例がないという。海外でも製鉄所などの「産業遺産」が登録されている点を挙げ、建築物としての価値を強調する。
世界遺産は、武力紛争や開発により消滅、破損する危険のある貴重な歴史的遺産や自然を守ろうとの趣旨から始まった。保全に力点をおいて、観光開発を制限したり、観光客の立ち入りを禁止したりする登録地もある。だが一方では、登録を機に観光客を増やし、地域の活性化につなげようとの動きが出るのも事実だ。
海外では「7不思議」の方が知られている
2007年、世界文化遺産に登録された石見銀山(島根県)は、翌08年に観光客が倍増した。遺産の保護のために自家用車や大型観光バスの乗り入れを禁止して、交通機関を路線バスのみとしたが、観光客にとっては待ち時間が長く、地元住民はバスが混雑して利用できないといった不便が生じた。結局は路線バスの乗り入れも止め、徒歩のみを許可することになった。
観光客が増えれば、マナー違反も出てくる。ゴミのポイ捨てといった迷惑行為が住民を悩ませた。さらに時間の経過とともにブームも落ち着き、09、10年と2年続けて観光客数は減少、世界遺産登録前と同程度の水準に戻ってしまったという。急激な観光化への対応は、簡単ではないようだ。
また海外では「世界遺産ブランド」が、国内ほど効果的なアピール材料になるかも微妙だ。あるテレビ番組で外国人数人に世界遺産について聞いたところ、「知らない」「世界遺産だからそこに行く、ということはない」との意見が出た。むしろ海外では「世界7不思議」の方が有名との声もある。
「7不思議」はもともと、エジプトのピラミッドをはじめとする古代の建造物を指していた。この「現代版」を世界で選ぼうと、スイスの財団が2007年にインターネットや電話による「新7不思議」の投票を呼びかけたのだ。財団によると投票に参加したのは1億人に上り、中国の万里の長城やペルーのマチュ・ピチュ、イタリアのコロッセオなど7つの文化遺産が選ばれた。11年には、今度は「自然遺産」を選ぶため、世界28か所の候補地を挙げ、ネット投票を進めている。この中には、日本からのエントリーは見当たらない。