南魚沼産コシヒカリ 7.2 産経ニュース
孫正義・ソフトバンク社長(53)の太陽光発電ビジネスは、電力と通信の融合による巨大市場を遠望している。脱原発に傾く世論の追い風に乗って、規制に守られた“原子力村”に風穴をあけることができるのか。13日には実施団体となる「自然エネルギー協議会」が設立され初会合が秋田市で開かれる。希代の起業家による構想がいよいよ動きだす。
自治体首長とタッグ
事業の中核は大規模太陽光発電所(メガソーラー)だ。「電田(でんでん)プロジェクト」と銘打ち、全国の休耕田や耕作放棄地など10カ所程度に建設する。協議会に参加する自治体の首長とタッグを組んで進める。
「知事の皆さんは熱い学生運動家のようで、戦う同志と感じている」
孫氏がこうエールを送れば、自治体側も橋下徹大阪府知事(42)が「孫さんの日本再生への情熱に震えている」と応じ「まるで革命前夜のような雰囲気」(関係者)が広がる。
一方、急拡大する原発への不信感が選挙の洗礼が待っている首長を動かした面もある。原発立地県の知事は「原発の再稼働を許容したら、次の選挙は苦しくなる」と漏らした。
土地40ヘクタールに太陽光パネルを敷き詰めるとした事業例によると、出力は2万キロワット、一般家庭6000世帯の電力を賄う能力がある。80億円かかる費用の大半はソフトバンクが負担し自治体は利用地の調整などを担う見込みだ。農地規制が障害になる可能性もあるが鹿野道彦農水相(69)は「放棄地30万ヘクタールを活用すれば実現できる」と構想を後押しする考えを表明した。
買取拒否の例外条項
事業推進の前提は電力会社による自然エネルギーの全量買い取り制度。導入を盛り込んだ再生エネルギー特別措置法案は政局のあおりを受け現状では成立が見通せないが、関係者は「政治が落ち着けば法案はすんなり成立する」と、成立自体にはそんなに心配はしていない。
気にしているのは、電力供給に支障が出る恐れがある場合は電力会社は買い取りを拒むことができるという例外条項だ。孫氏周辺は警戒を強めているが、こうした懸念を一挙に吹き飛ばす構想も関係者の間でささやかれ始めた。「送電事業への参入」(大手商社幹部)だ。発送電分離の行方は不透明だが、電力事業自由化の論議が進めばチャンスも出てくる。孫氏が送電網を手にすれば、自前の通信事業との相乗効果が飛躍的に高まる可能性がある。
次世代送電網で突破
その突破口とみられるのが効率的な電力消費を目指す次世代送電システム「スマートグリッド」だ。送電、通信の基本インフラとして各家庭や事業者にくまなく張り巡らされたネットワークに発展すれば「間違いなく巨大市場になる」(経済アナリスト)との見方もある。
孫氏がエネルギー問題に目覚めたのは福島県の避難所訪問。福島県に入り携帯した線量計は毎時5マイクロシーベルトを突破したが、訪れた体育館では人々は無防備なまま。高齢の女性は「早く原発が直ってほしいね」と言うだけで東京電力への非難は一切なかった。孫氏の目には「原発は地元を交付金と雇用でがんじがらめにし、批判を封殺している」と映った。
孫氏のビジネス手法に詳しい関係者は「(孫氏が今戦っている)総務省・NTT連合と、(これから相手になる)経済産業省・東電連合は全くの相似形。孫氏にとって、既成勢力への挑戦はお手の物」と指摘する。