河野太郎
2011年07月27日(水) 週刊現代
当選5回の48歳。父親は河野洋平元自民党総裁。だが、単なる世襲の中堅議員ではない。長老議員を怒らせ、原発族議員に嫌われる「変わり者」。停滞する政治状況を打破するのはこの男かもしれない。
コロコロ変わらない男
「菅総理がいま、脱原発をしきりに口にしていますが、私に言わせれば全然、脱原発じゃない。たとえば、菅総理は6月に、ドイツのボンで開かれた国連気候変動会議に出席した。そこで何を言ったと思いますか。途上国に原発を売って削減できたCO2を、京都議定書に定めた日本のCO2削減分にカウントしてほしいと言っているんです。
国内向けには脱原発を言うけれど、海外には原発を増やしますと宣言しているようなもの。福島第一原発の事故で世界中に迷惑をかけているということをまったく理解していない」
菅直人総理の「エセ脱原発」路線を、こう喝破するのは自民党の河野太郎衆院議員(48歳)である。
原発事故の後、河野氏が以前から一貫して日本の原子力政策を批判し続けてきたことにあらためて注目が集まっている。
日本では、採掘したウランを加工処理し、原発で使用した後、さらに再処理して原発で使用できるようにするという核燃料サイクルを柱に、原子力政策が進められてきた。ところが、実際には青森県六ヶ所村の再処理工場は事故多発で稼働すらできず、高レベル放射性廃棄物の処分場もないため、各原発にあるプールに使用済み核燃料棒を貯めておくことしかできない。原発を稼働させる以上、使用済み核燃料棒はどんどん貯まるばかりで、いずれプールが一杯になれば原発は動かせなくなる。だから、原発を止めて、再生可能エネルギーにいち早く移行すべきである---。
これが河野氏の従来からの主張であり、論旨は極めてわかりやすい。しかし、これまで河野氏は、原発を推進してきた自民党内にあって「変わり者」という評価が常について回っていた。それは原発問題に限らず、おかしいと思うことは、党の方針に逆らっても、遠慮せずに発言してきたからに他ならない。
たとえば、'09年9月に初めて総裁選に出馬した際は、森喜朗元首相らベテラン組を「腐ったリンゴ」と批判。麻生太郎首相(当時)が作ろうとした通称「アニメの殿堂」にも、党の「無駄遣い撲滅プロジェクトチーム」の一員として「こんなマンガ喫茶に税金を使うのは無駄」と現役総理にノーを突きつけている。
最近では6月22日の衆院本会議において、国会の会期延長70日間を決める採決の際に、党の方針に逆らって賛成。この造反によって、7月5日に1年間の「党の役職停止」「国会及び政府の役職の辞任勧告」処分を受けたばかりだ。
作家の江上剛氏は、そんな河野氏を「日本の総理に」と推す一人である。
「私は河野さんとはまったく面識がないし、自民党だからとか民主党だからという観点で次の総理を考えているわけではありません。そのうえで、河野さんの言っていることは非常に常識的だと思うのです。会期延長問題でも、当初、菅総理は6月22日の会期末で国会を閉めようとしていた。河野氏はそれに対して、被災地のことを考えれば、国会を延長して対応せざるを得ないと主張し、自民党執行部もそう言っていた。ところが、退陣を迫られた菅さんが一転して会期延長を言い出すと、自民党も『あれは延命のためだから反対』と主張を変えてしまった。こういうのは国民としてまったく理解できない。結局、一貫していたのは処分を受けた河野さんのほうです。最近の政治家は状況に応じて言うことがコロコロ変わるけれど、そういうことがないという点で、河野さんは信頼ができる」
しがらみがない
河野氏が自民党内で「変わり者」と呼ばれることについて、「だからこそ評価できる」と語るのは、環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也氏だ。
「日本の政治自体が、この21世紀の世の中において、国際的な観点で見れば相当変わっているんです。変わっている人だらけの世界では、当たり前のことを言っている人が変わって見えるのは仕方ない。21世紀型の政治家は、昔のように『よきにはからえ』というタイプでは通用せず、見識に裏付けられた具体的な政策観が必要です。それなのに日本の政治はいまだに周囲に目配せをして、義理があるからとか、相手のメンツも立ててという理由で、最低限の原則さえ破って、足して2で割るという発想から抜け切れていない。
原発問題でもこの状況で再稼働するのは非常識。しかし、日本の政界では、過去のしがらみのなかで再稼働ありきで進んでしまう。これを論理的におかしいと言う河野さんの感覚はまっとうですし、21世紀型の政治ができる数少ない政治家だと評価しています」
河野氏とは、'96年の初当選直後からの付き合いで、『変われない組織は亡びる』という共著もあるスポーツジャーナリストの二宮清純氏も、「河野さんが変わり者だと思ったことは一度もない」と語る。
「彼は自動車部品会社に勤めていたこともあって、市井とか市場の動きに非常に敏感です。国会まで電車通勤しているように庶民感覚もある。また、難しいことを簡単な言葉で話すコミュニケーション能力も高い。将たる器だと思います。
政党や団体といったムラの権益のために動くタイプでもありませんし、脱永田町の論理で語れる新しいタイプのリーダー。彼が総理になれば、この国の古いしがらみやもたれ合いの構図にズバッと切り込んでくれるでしょう」
河野氏の「古いしがらみを断ち切る力」に期待する思いは、若者ほど強い。それを示すアンケート調査がある。世代間格差の克服を目指すワカモノ・マニフェスト策定委員会という団体が、今年5月、会員たちに「次期リーダーにふさわしいのは誰か」というアンケートを行った。自由回答形式で、現役政治家以外の名前を書いても構わないという条件だったにもかかわらず、1位に選ばれたのは河野氏。2位以下は橋下徹氏、大前研一氏、孫正義氏などと続く。同委員会のメンバーで人事コンサルタントの城繁幸氏は、この結果についてこう解説する。
「アンケートに回答した人たちは30代が中心で、彼らは政局や政党の違いには興味がなく、個々の政治家がどんな政策を掲げていて、どの程度実現してくれそうかシビアに見ています。そこでは原発問題に対する姿勢よりも、河野さんの構造改革を進める姿勢が評価されているんだろうと思いますね。普通に考えて、このまま消費税も上げないで、年金を維持できるはずがない。国債も減らしていかないと将来の日本の成長戦略が描けない。それなのに、こういうことをはっきり口にしているのは、政治家では河野さんしかいないということでしょう」
変人でいい
ここまでは河野氏を推す人たちの意見を見てきた。ただ、現在の永田町を支配している空気で言えば「河野なんかたいした実績もない変人」という見方が多いのも事実である。それでも、古くは明治維新における坂本龍馬や西郷隆盛、卑近な例を挙げれば小泉純一郎元総理のように、良くも悪くも時代に楔を打ち込んだ人物には、「変人」と呼ばれた人が少なくなかった。現役総理がいつ辞めるかで、与野党揃ってグダグダやっている姿を見ると、いっそ河野氏に総理をやらせてみれば、という気にはなる。
社民党の福島みずほ党首が言う。
「ひたすら原子力政策を推し進めてきた自民党のなかで、一人で闘ってきたことは素直に評価します。古くからのボス社会の自民党で一匹狼と呼ばれながら主張を貫き、信念を押し通すのは敵も増えるし大変なことだと思います。憲法論議など意見が違うことは当然ありますが、その一点において、政党を超えてエールを送りたい。私は、これからの日本の政治は個別政策で共闘していく時代に入るべきだと思っており、原発問題や再生エネルギー問題では、河野さんと社民党の考えは一致しています」
すでに河野氏の周辺では来るべき日に向け、士気は高い。河野氏を推す自民党の平将明衆院議員に聞いた。
「今回の東日本大震災で、明らかに時代は変わった。確かに党内には河野さんを変人呼ばわりしている人がいるけれど、まだ彼らは時代が変わったことに気が付いていないから仕方ない。でも、経済界を見ても、楽天の三木谷(浩史)社長のように、今までの枠組みでモノを捉えていては通用しないと考える人はいっぱいいます。党内が変わらなくても、世の中の協力者が増えれば、総裁選でも7割の自民党議員は有利なほうに流れる。来年夏に行われる自民党総裁選が河野さんにとって勝負の時です」
河野氏が総理になれば、三木谷氏や孫正義氏ら新興産業の財界人にも協力者は現れるだろう。実際、河野氏は孫氏に勧められてツイッターを始めたように、以前から親交がある。政界を見渡しても、自民党を飛び出したみんなの党の渡辺喜美代表や、超党派の「民自連」(「国難対処のために行動する『民主・自民』中堅若手議員連合」)を組む民主党の樽床伸二元国対委員長のように、党外のパイプも持っている。
このパイプを活用すれば、菅総理がほのめかす今年9月の原発解散・総選挙で、民主・自民ともに過半数を取れず、河野氏を中心にした政界再編が起こる可能性は否定できない。また、遅くとも再来年の夏には総選挙があり、自民党総裁として、これに勝利することも考えられる。
「自民党総裁選に出ます」
最後に、当の河野太郎氏本人との一問一答を紹介しよう。
―来年の夏には谷垣総裁の任期満了に伴う自民党総裁選があります。
「手を挙げようと思っています。原子力の話は'97年からずっと言い続けてきました。基礎年金についても消費税増税で対応するしかないという主張をしてきて、自民党内では変わり者扱いされてきましたが、今になってみると若い世代を中心に、両方とも河野の言うとおりだという声が伝わってきています。党内でも、少し前までは『違うんじゃないか』と言われたのが、『早く実現してくれ』と言われますから。ようやく自民党が河野太郎に追いついてきたのかもしれません」
―自民党を飛び出すことは考えていない?
「新党を立ち上げるよりは、自民党を乗っ取ったほうが早いですから」
―しかし、古い世代からは抵抗があるでしょうね。
「エネルギー政策ひとつ取っても、これは利権構造がある。電力会社の役員は半分カットしても3600万円もの給料をもらっていて、自分の任期中に世の中が変わるとは思っていない。これは経産省の課長クラス以上も同じで、高レベル放射性廃棄物の処分場ができなくても、自分の任期中は困らないと考えて、先送りする。政治家だって、そんなのは自分の引退した後の話だと思っている。極めて無責任です。年金問題と同じ構図ですよ。でも、将来を考えれば、今エネルギー政策を転換しなければなりません」
―では、河野さんが総理になったら、どんな国にしたいですか。
「私は日本を経済成長させるのが自民党の役割だと思います。経済成長のためには、規制緩和を真っ先にやらなければなりません。小泉改革でタクシー業界や酒販売業で規制緩和が行われたけれど、一件一件の企業規模が小さかった。これを電力業界や航空業界など規模の大きいところでやれば、電力料金も下がるし、飛行機ももっと便利になる」
―格差が広がるのではないですか。
「もちろんセーフティネットを張るのは国の責任です。でも、このままみんなで貧しくなるのか、それとも格差はあるけれどみんなが今日より豊かになるのか、どちらを取るかという選択だと考えます。原発がなくても、日本は経済成長して、もっと豊かになれると確信しています」
経済成長一本槍で、ある程度の格差はやむを得ないという主張には、違和感を持つ人もいるだろう。だが、耳に優しい言葉ばかりで経済成長もできず、格差も縮められなかったのが、民主党政権ではなかったか。
果たして、河野氏が総理になることはあるのか。そして、そのとき、彼は日本を、我々を、どこに連れていこうとするのだろうか。