南場智子
2011.10.05 zakzak
地元紙では今年も横浜の身売りは失敗濃厚報道。交渉中と言われていたTBSとディー・エヌ・エー(DeNA)の横浜の身売り話だが、急転の様相とか。昨年の住生活グループ(現リクシル)と破談した二の舞いとなれば一大事だ。球界への衝撃は計り知れない。
球界関係者が危惧するのは、横浜球団買収交渉話を企業PRだけに使われてしまうパターンが出来上がってしまうことだ。結果的に昨年の住生活グループがそうだったからだ。
「昨年の住生活グループは土壇場で買収話がご破算になって、結果オーライ。理想的な結末になっている。住生活グループの存在を世間に大々的にPRしただけではない。リクシルと企業名変更することまで周知徹底してしまった。実際に球団を買収すれば、年間20億円もの赤字を覚悟しなければいけなかったが、結果的には1円も使わずに最高の企業PRになったのだから。ディー・エヌ・エーも同じような結果に終わったら最悪だ。携帯電話専用ゲームサイトの『モバゲー』は有名でも、運営会社のディー・エヌ・エーを知っている人は少なかったが、知名度は一気に全国的に上がったからね。ご破算に終わってもメリットは十分あるだろう」
前出の球界関係者がこう不安視するのも当然だろう。財政難の親会社TBSが横浜球団身売りに成功しなければ、常に白旗、丸投げの危険性があり、球界再編、1リーグ制度の動き再燃がついて回る。社名PRを目論む企業とすれば、経費を使わず最高の結果を出せるだけに、今後も同じようなことが繰り返される恐れがある。
今回のディー・エヌ・エーの球団買収には、もうひとつ、球界全体にかかわる問題が絡んでいる。リーグ消滅の危機からパ・リーグが再生できたのは、本拠地を分散して地域密着型球団の経営スタイルを確立したからだ。逆に横浜が身売り危機にさらされているのは、巨人、ヤクルト、横浜と首都圏に3球団も集中しているのが一因だ。
しかも、横浜球団には本拠地球場問題がある。「球場側がもうけすぎ。横浜を出た方が良い」と巨人・渡辺球団会長が事あるごとに強調するように、高い球場使用料、売店収入も横浜スタジアム側に入る契約システムになっている。昨年、住生活グループとTBSの交渉が最終的に決裂したのは、本拠地問題だと言われている。横浜から移転しようとする住生活グループに対し、横浜残留を主張するTBSの間で折り合いがつかなかっというのだ。
が、苦境に追い込まれているTBS側には本拠地・横浜残留にこだわっている場合ではないだろうし、地方進出は新球団生き残りに欠かせないのが現実だ。ディー・エヌ・エーが横浜球団を買収すれば、いきなりは無理でも、1年後にはプロ球団本拠地誘致をしている新潟への移転の道が開けるはずだった。というのも、1999年にディー・エヌ・エーを設立した代表取締役の南場智子氏が新潟出身だからだ。
現在は療養中の夫の看護のために代表権のない取締役に就任している南場氏だが、新潟移転へのキーパーソンになるところだった。TBSとディー・エヌ・エーの横浜球団売買交渉が成功すれば、球界にとって願ったりだった。が、地元紙の報道通りに失敗したとすれば、その衝撃は二重、三重になって跳ね返ってくる。
(夕刊フジ編集委員・江尻良文)