IPMU-数物連携宇宙研究機構
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宇宙
2011.10.09 NEWSポストセブン
宇宙はどうやってできたのか、はたして終わりはあるのかといった謎に、人類は長いあいだ挑み続けてきた。そうした疑問が解明されるかも知れない研究が、近年進められている。愛知県名古屋市にあるサイエンスカフェ・ガリレオ・ガリレイで2011年10月9日、東京大学数物連携宇宙研究機構(IPMU)の村山斉氏が、そうした宇宙の「謎」と現在の研究について語った。村山氏によると、宇宙の始まりには「暗黒物質」が、そしてその終焉には「暗黒エネルギー」の存在が関係してくるという。
■「暗黒物質」はすべてを生んだお母さん
私たち人類が観測できる宇宙のほとんどは、「暗黒物質」で満たされているという。太陽を中心とする「太陽系」は「銀河系」の一部で、地球が太陽の周りをまわっているのと同様、太陽系自体も銀河系をまわっている。だが、我われがいま観測できている銀河系の中心部には太陽系をつなぎ止めておくだけの引力はない。つまり、太陽系は銀河系から飛び出してもおかしくない状況であるにも関わらず、そうはなっていないのだ。天文学者たちは、銀河系のなかにいまだ観測できない「暗黒物質」があり、その引力が地球を含む太陽系に働いていると考えている。
暗黒物質は目に見えず、なんでも通り抜けてしまうため、村山氏は「オバケのようなもの」だと表現する。現在、この暗黒物質の正体を探るため、岐阜県のスーパーカミオカンデでも観測実験が進められている。暗黒物質を捕まえ解明に成功すれば、宇宙ができてから「100億分の1秒後」の世界に迫ることも夢ではない。
村山氏は暗黒物質を「我われのお母さん」とも表現する。
「宇宙の始まりは、ほとんど”のっぺらぼう”。そこに暗黒物質があったために、暗黒物質同士が重力で引き合って(宇宙に)コントラストができ、そこに原子が引きずり込こまれて星や銀河ができ、さらに私たちが生まれた」「暗黒物質のない宇宙をコンピューターでシミュレーションした場合、(現在と同じ)137億年が経っても凸凹が全然できず、のっぺらぼうのまま。つまり星ができない、惑星もできない、我々も生まれない」
■ノーベル賞に輝いた「暗黒エネルギー」の発見
一方で、宇宙終焉のカギになるとされるのが「暗黒エネルギー」だ。宇宙は膨張しているが、近年までその速度はいずれ減速すると信じられてきた。だがその定説は、謎のエネルギー「暗黒エネルギー」の発見によって覆される。1998年、カリフォルニア大バークレー校のソール・パールマッター教授らが「暗黒エネルギー」を発見。宇宙の膨張速度は70億年前から加速していることを証明した。ソール・パールマッター教授らはこの発見で、本年ノーベル物理学賞を授与された。
宇宙の膨張を加速させる原動力・暗黒エネルギーも暗黒物質と同様、その正体はわかっていない。だが村山氏によると、暗黒エネルギーは宇宙の未来を予測する上で、重要なカギを握るという。
「暗黒エネルギーは増えているが、どの程度早く増えているのか、膨張は加速し続けるのかが解明されれば、宇宙がこのまま加速し続け、引き裂かれて終わりを迎えるのか、それとも加速したものの(その後)減速してもとの状態に戻るのかがわかる」
という。現在、世界中が暗黒エネルギーの解明にも躍起になっており、村山氏らも画素数9億ピクセルのカメラを備えた「SuMiRe(スミレ)」で、遠方銀河を観測するプロジェクトを進めている。
(中村真里江、土井大輔)