シェールガス
2011/10/12 JCASTニュース
福島第1原発事故のあおりで国内の原発運転継続に暗雲が垂れ込める中、天然ガスへの関心が高まっている。なかでも注目されるのが「シェールガス」。液化天然ガス(LNG)と同成分だが、存在する地層が違うため、「非在来型LNG」と言われ、回収技術が近年、急速に進歩した。特にその生産で先行する米国から日本に輸出される可能性が高い。LNGの「価格破壊」の期待も含め、「シェールガス革命」は、原発事故に見舞われた日本、そ して世界の救世主なのか。
福島の事故を受け、日本各地の原発が検査時期を迎えて次々停止し、来年春までに国内の全原発が止まる可能性がある。その代替火力発電の燃料として 電力各社がLNG確保に走った結果、燃料費は、東電だけで年間1兆円、全電力会社で年間2兆円膨らむとされる。
採取技術の進歩で米国やカナダで開発進む
そこでシェールガスは、環境とコストの両面から注目されているわけだ。
LNGは、石炭や石油など他の化石燃料と比べ二酸化炭素(CO2) の排出量が少ない。運転中にCO2を排出しない原発には及ばないが、温暖化防止の観点から石油より優位。シェールガスもこの点は同じだ。
コスト面は従来のLNGより優位だ。地下から採取される天然ガスの多くは やわらかくて掘りやすい砂岩にたまっているのが一般的で、井戸を掘って採取する。シェールガスは地下の固い頁岩(けつがん=シェール)層に存在していて、 世界各地の地下に存在することは以前から知られていたが、採取が難しく、放置されてきた。
このシェール層からガスを効率よく採取する技術が近年、急速に進歩し、米国やカナダなどで開発が一気に進んだ。これでLNG市場の需給が緩んだ。米国内のガス価格は、2005年には天然ガス売買の単位である100万BTU(英国熱量単位)当たりで9ドル近かったが、2009年以降は3分の1程度の3~4ドルに急低下。米国は、エネルギー安全保障の観点から自国産エネルギーの輸出を原則として禁じている「閉鎖市場」だが、2015年以降にLNG輸出が解禁されるといわれ、世界のLNG相場は中長期的に低下していくと見られている。
ちなみに、日本が輸入しているインドネシアやオーストラリアなどのLNGは、20年間の長期安定供給などが保証される契約だが、価格は原油価格 と連動するため、現在の価格は100万BTU当たり13~16ドルと米国内の4倍程度。日本がシェールガスを輸入できれば、原発とLNGの発電コスト差は一気に縮む。
採掘に伴う環境破壊がネックになるのか
米エネルギー省エネルギー情報局(EIA)のレポート(2011年4月)によると、世界32カ国で技術的に採掘可能なシェールガスの埋蔵量は 6,622兆立方フィート。国別では(1)中国(1,275兆立方フィート)、(2)米国(862兆立方フィート)、(3)アルゼンチン(774兆立方フィー ト)、(4)メキシコ(681兆立方フィート)など(日本は地質年代が新しいため、商業規模で生産することは難しい)。今後、中国など途上国や欧州なども開発に力を入れるのは確実で、「シェールガス時代到来」とはやす向きもある。
ところが、ここにきて、期待に水をさす声が広がっている。理由は採掘に伴う環境破壊だ。
問題はシェールガスの掘削法。米国など採用されている水圧破砕法は、水を圧入し、岩石がひび割れるまで圧力を高め、天然ガスを放出させる。破砕層の安定のため、砂と化学薬品も注入する。ガスは岩石から押し出され、地表のガス井から改修される仕組みだが、メタンなどの成分が地中へと拡散し、周辺の土壌や地下水、河川の水などを汚染する可能性がある。米国では一部採掘現場近くで、「火が付く水」が問題になっている。
採掘の際に大気中にメタンガスが漏れ出るのも難点だ。シェールガスは漏れなく回収できるわけでなく、通常で3分の1、場合によっては回収されるガスの2倍が大気中に放出されていると言われる。メタンの温室効果はCO2の21倍で、地球温暖化を深刻化させる恐れがある。
専門家は「本格的に世界のエネルギーの柱に育てるためにも、環境問題をクリアする必要がある」と、安易な期待を戒めている。