カンゾウ属(甘草)
新郷村(青森県)
2011.11.05 zakzak
漢方薬の約7割に使われる生薬「甘草」が「レアプラント(希少植物)」として企業などから熱い視線を集めている。漢方薬ブームに加え、抗生物質の代替可能性の研究も進む。旺盛な需要に対し、最大供給国の中国の輸出規制で相場は高騰気味。商品作物としての将来性に目を付けた製薬業界以外の企業も事業参入をもくろむなど、甘草市場は「ミニバブル」の様相を見せている。
▽村の一大産業に
十和田湖の東側、秋田県境に近い青森県新郷村は典型的な高齢過疎の村。人口約3000人で冬は氷点下10度を下回る。この村外れの村有地に約1300本の苗が並び、うねの中で葉の丸い植物が育っていた。甘草の苗だ。この根の部分が漢方薬原料になる。
今年7月、村の公社が、生薬に力を入れる製薬中堅の新日本製薬(福岡)と甘草の研究栽培で提携。甘草はやせた土地でよく育つとされる。冷涼な気候が向いているとの説もあり、国内栽培の拡大を目指していた新日本製薬と、村有地の活用策を検討していた村の思惑が一致した。順調なら初収穫は再来年。須藤良美村長は「多くの農家が手掛ければ地域の一大産業になる。農家も村も変わる」と期待する。
甘草はマメ科の多年草で、アレルギー性炎症疾患や胃潰瘍、肝障害に有効とされ、幅広い漢方薬に使われる。さらに近年は、抗生物質の代替可能性の研究も進む。東北大の鈴木啓一教授(動物遺伝育種学)の豚を使った研究で、甘草を加えた飼料を与えた豚は、粘膜への微生物の侵入を防ぐ物質が通常の飼料を与えた豚の約4倍作られ、抗炎症作用も認められた。
鈴木教授は「疾病予防効果があると考えられる。豚は代謝、免疫機能がヒトと似ており、ヒトへの応用も考えられる」と評価する。抗生物質への過度な依存が問題となる中、注目の研究だ。
▽レアアース状態
一方、中国は乱獲の深刻化で2000年、輸出総量の縮小や許可制導入など輸出規制を始めた。市場では薬用植物が全般的に調達困難になるとの懸念が広がり価格が上昇。甘草は10年までの4年間で2割上がり、日本漢方生薬製剤協会によると4倍以上に高騰した植物もある。中国の輸出規制に市場が翻弄されるレアアース(希土類)と酷似した状況で、今年の輸入量は8月までですでに例年の1年分に達した。
生薬製剤協会によると、日本の生薬用甘草の輸入比率は100%で、漢方薬大手のツムラは安定調達のため人工栽培に着手した。すでに中国で大規模な実験栽培がスタート。将来は全量を人工栽培に切り替える方針で、国内栽培も視野に入る。
異業種では鹿島が水耕栽培に成功。三菱樹脂はベンチャー企業と研究開発に乗り出した。企業には各地の自治体や農家から提携話があるという。やがて薬草が、停滞する日本農業の起爆剤になる日が来るかもしれない。