小出裕章
2011.11.07 ガジェット通信
原子力の専門家としてその危険性を訴える京都大学原子炉実験所の小出裕章助教の講演会が2011年11月6日、長野大学で行われた。小出助教は原子力発電の危険性に触れ「願望で安全を守れるはずがない」と語るとともに、すでに放射能に汚染された食料品については、「10禁(10歳未満は禁止)」といった年齢区分(レイティング)を設けることで対応すべきだした。
■「安全神話」の背景にあったもの
1999年、茨城県東海村JCOで臨界事故が発生、被曝した2名が死亡した。2000年度の『原子力安全白書』によると、この事故以前にも原子力関係者の多くは、「原子力は絶対に安全という考えを有していない」状態にあったという。にもかかわらず、なぜ「安全神話」は作られたのか。その理由として、同白書には次の5 つが挙げられていると小出助教は示す。
・ほかの分野に比べて高い安全性を求める設計への過剰な信頼
・長期間にわたり人命に関わる事故が発生しなかった安全の実績に対する過信
・過去の事故経験の風化
・原子力施設立地促進のためのPA活動のわかりやすさの追求(=広報活動の効果)
・絶対的安全への願望
こうした事情を背景に、いつしか原子力の安全は日常の努力の結果として確保されてきたという事実は忘れ去られ、「安全神話」が出来あがったという。小出助教は「誰だって安全であってほしいと願うけれども、願望で安全を守れるはずがない」とし、原子力発電から即刻手を引くべきであると語る。
■「汚染された食べ物には年齢区分を」
だが、すでに福島第1原発事故が発生し、周辺地域は汚染され人々の日常は崩壊している。そのような状況下で、いま日本がやるべきことは何か。小出助教は「子供を被曝させない」こと、「第一次産業を守る」ことの2点
を挙げた。
「子供は放射性物質に対する感受性が高い」と小出助教。人は細胞分裂を繰り返すが、子供のように細胞分裂が活発な時期に遺伝情報が傷つくと、傷ついたまま細胞が複製されてしまい、病気になるリスクが高まるという。また、子供には原子力を選んだ責任はないことから、優先して放射能から守るべきだと主張した。
その一方で小出助教は、放射能汚染によって危機に瀕している第一次産業の保護を訴える。現在、政府は農作物をはじめとする食料品に汚染程度の基準を設け、値以下の物を「安全だ」としている。こうした政策に対し、小出助教は「政府は汚染の事実を隠そうとしている」と批判。いずれも程度の問題にすぎず、「汚染されていない食べ物はすでにない」と語る。小出助教はその上で、第一次産業保護のためにも、基準値という「線」を引くのではなく、食品の汚染を徹底的に調べあげることで、
「食べ物に、映画の『18禁』のような(年齢制限)制度を作るべき」
と、レイティングの設定を提言。汚染の度合いによって「60禁(60歳未満禁止)」、「40禁(40歳未満禁止)」、「20禁(20歳未満禁止)」といった年齢区分を設け、子供には汚染度の低い物を食べさせるべきとした。子供を被曝から守るために、大人が汚染されたものを引き受ける。「唯一提案できる方法は、これしかない」と小出助教はいう。
◇関連サイト
・[ニコニコ生放送] 小出助教の訴える「私の願い」から視聴 - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv68086270?po=news&ref=news#0:50:17
(中村真里江)