2011年11月18日 現代ビジネス
わずか3ヵ月で延べ90人がゾロゾロと税金投入額は年に5億5000万円超!
自民党の前衆議院議員で、議員時代に「税金の無駄遣いを一円たりとも許さない若手の会」のメンバーだった弁護士の牧原秀樹氏が憤る。
「国会議員が海外へ出張する場合、個人や議員連盟などで、自費を使って行くのは自由でしょう。しかし政府の一員として多額の公費で海外に行く場合は、問題があります。税金の無駄遣いと言われても仕方がない。大臣や副大臣クラスの議員が行く際には、多いと80人もの専門スタッフが同行するのです。
しかも大臣や副大臣の飛行機の席はファーストクラス。秘書官やSPも、その周りのファーストクラスを占拠します。
以前は一般の議員もファーストクラスを使っていましたが、ビジネスクラスに落とせば年間5000万円ほどの節約になると私は'08年に提案しました。ようやく一般議員がビジネスクラスを使うようになったのは、昨年になってからのことです」
今年度、国会議員が海外視察するために計上されている公費は、衆議院が約4億4100万円。参議院が約1億1200万円。両院合わせて、実に5億5000万円超の税金が投入されているのである。
今年は、3月11日に東日本大震災が起きて以降、海外視察は自粛傾向にあった。通常は国会閉会中の8月を中心に行なわれるのだが、今年は9月に臨時国会が閉幕すると再び視察が活発化。8月からの3ヵ月間で、衆参両院の公費での議員海外公式派遣は14件にのぼる。出張したのは延べ90人以上。
4ページの表は、それぞれの視察の議員名や期間、目的などを衆院と参院ごとにまとめたものだ。参加議員の数が特に多いのは、福島第一原発事故の調査を目的とした、ウクライナのチェルノブイリやアメリカのスリーマイル島への視察だろう。全国市民オンブズマン連絡会議事務局長で、弁護士の新海聡氏が解説する。
「今さらチェルノブイリやスリーマイルを見に行って、どうするのでしょうか。帰国後の参加議員の動きを見ても、それらの場所を調査に行くほど関心があったとは思えない。
彼らのうちどれだけの議員が、原発事故の対策に意見を言い、東京電力の対応の問題点を指摘したでしょう。視察後に、国会で原子力やエネルギーに関する議論が盛り上がったとも聞きません。
チェルノブイリに行ったのなら原発を今後どうするのか、視察をどう自身の政策に活かすのか、国民に説明すべきです。国民の目には、海外視察が国会議員の特権的ツアーとしか映りません」
議員の海外出張は、これまでにもたびたび問題視されてきた。昨年10月には、8月19日から10日間ギリシャやベルギーなどを訪れ各国の閣僚と会談した民主党の中塚一宏衆議院議員(46)が、妻子を帯同し議員団のバスに同乗させていたことが判明。
中塚氏は「家族の旅費は自ら手配したが、バスは半分以上空席だったので同乗させた。誤解を招いたのなら申し訳ない」と陳謝する事態に発展したのである。前出の牧原氏が振り返る。
「'05年の11月に衆議院の憲法調査会は大議員団を編成し、2週間ほどヨーロッパを視察しました。その時は、かなりの人数の議員が奥さんを同行させています。私もある議員から、『フランスの美味しいレストランで一緒に食事を楽しんだよ』と聞きました。毎晩、夕食会があるわけではありませんから、空いた時間は夫婦で海外旅行を楽しむんです。議員にとって海外視察は『俺が頑張ったから、こんな晴れの舞台に立てるんだよ』と奥さんに自慢できる機会でもあります。大臣の出張となると、さらに大変です。奥さんが『買い物はあの店がいい』などと言えば、付き添いの官僚たちがエスコートしなければならないのですから」
また、中には、こんな不届きな議員もいると牧原氏は続ける。
「海外視察で、マイレージを溜めるのを趣味にしているような人も結構います。彼らは税金を使って出張し、そこで溜めたマイレージを私的に使っているのです。特にファーストクラスなら、マイレージがすぐに溜まる。それを自分のもののように使うのは、大問題でしょう」
旅費814万を「妥当な支出」
はたして本誌が表にまとめた最近の海外視察は、本当に意味のあるものなのだろうか。掲載した議員のうち団長を中心に10人ほどへ質問状を送ったが、回答はほとんどなかった。明確な回答があったのは、わずかに2件だけ。まず10月2日~8日までアメリカを訪れた衆院「安全保障委員会」について、団長の民主党・東祥三議員(60)の事務所の説明を紹介しよう(文書による回答、カッコ内は編集部による注)。まず経費について。
「旅費850万7095円。国政調査活動費(議員や国会職員が国や政治の問題について調査するために、参考書などを購入するための費用)39万5612円。他に私費での支払いあり」
こうした経費については「より多くの有識者等と会うことを優先にした日程であり、公的な予算も最小限の出費に抑えることが出来たと考えている」と回答したが、庶民感覚からすれば目が眩む金額である。成果については、こう答えた。
「米国の議員、有識者等との意見交換により、東アジアにおける戦略環境が厳しい状況になる中で日米関係の強化及び日米議員間の交流の必要性について共通の認識を持つことが出来たと考えている」
10月8日~14日までニュージーランドやオーストラリアなどを訪問した衆院の「国土交通委員会」について、団長の民主党・伴野豊議員(50)の事務所からの文書はこうだ。経費については「旅費814万1985円。国政調査活動費56万3938円。他に私費での支払いあり」と答えた上で、「法規に基づいた妥当な支出と考える」と返答した。視察の成果については、こう綴っている。
「東日本大震災の被災地における復旧・復興政策の参考に、ニュージーランドのクライストチャーチにおける地震被害('11年2月)からの復旧・復興状況について、また、インドネシアのバンダ・アチェにおける津波被害('04年12月)からの復旧・復興状況について、それぞれ調査を行った」
だが政治評論家の有馬晴海氏は、こうした議員の視察を批判する。
「税金の無駄遣いです。日本の債務超過はギリシャ以上なんですよ。インターネットで調べれば済むレベルの視察なら、行かないほうがましです。震災復興を考えるなら、福島に行くほうがよっぽどいい。議員たちは海外に出張するより、汚泥の処理や瓦礫の片付けなどのボランティア活動をしたらどうでしょうか。被災地の仮設住宅で暮らす知人は、『畳さえない』と嘆いています。海外に行くカネがあったら、被災者のために畳を買うべきです。1度の海外視察で何百万円もかかっている事実に、国民は納得しないでしょう。『無駄をなくす』と言っているのは、政権与党の民主党ですよ」