2011.11.23 zakzak
米連邦政府がらみの重大なスクープはニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストといった大手新聞の記事と相場が決まっていた。ワシントン駐在時代、そんな記事をいち早く日本に向けて紹介するのも重要な仕事だった。
だが、国防総省がらみのニュースに限れば、ワシントン・タイムズ紙が最も注目されていた。
同紙は部数が少なく(ワシントン・ポストの5分の1程度)、宗教関係者が社長ということもあって本来は注目度が低いのだが、国防総省に情報源のある名物記者がおり、軍事がらみのスクープには定評があった。
そのタイムズ紙が最近、「国防総省は中国に対する軍事戦略として冷戦時代なみの封じ込め策を採用した」と報じた。記事の中で、取材を受けたホワイトハウス高官が「冷戦型の精神を示すものだ」と言い切り、パネッタ国防長官も今年10月に「アフガン、イラク後はアジアに(安全保障の)焦点が移る」と語ったことを紹介しており、明らかに戦略転換を暗示している。
封じ込めというのは冷戦期の米ソ対立時代、ソ連と共産主義の拡大を防ぐため戦略拠点をその周辺に置き、包囲網を築くことを指している。この戦略は結局、米ソ軍備競争へとつながり、最終的にはソ連が経済的に破綻した。
しかし、冷戦後の米中関係について言えば、そうしたむき出しの対立はこれまでみられなかったのである。
アメリカは自由と市場経済を強く信奉する民主主義国家であり、イデオロギーの面からは共産党1党独裁の中国とは相いれないはずだが、ニクソン政権時代に国交を回復したあとはおおむねエンゲージメント(関与)政策を採用してきた。
この政策は経済面でつながりを深めれば中国を国際社会にエンゲージ(参画)させることになり、いずれは民主国家へと脱皮させることができる。そうした狙いを持った深謀遠慮だった。
ところが、中国の経済発展は予想をはるかに上回るスピードとスケールで進み、いまや国内総生産(GDP)は世界2位、いずれはアメリカをも追い抜く勢いだ。しかも、それにともない軍事面でもアジア太平洋での存在感を強め、東シナ海や南シナ海では周辺国との軋轢(あつれき)が絶えなくなった。
このため今年に入ってクリントン国務長官による中国牽制(けんせい)の場面が増え続け、中国が領土主張する尖閣諸島については「日米安保条約の適用範囲」と、これまでにない強気の発言をしていた。
そうした文脈で見ると、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が中国向け諸国連合にみえてくる。アジアの経済統合は従来、中国が主導するASEAN(東南アジア諸国連合)プラス3(日中韓)がモデルとされてきたが、それに対抗するように米国主導のTPPが登場したからだ。
TPPは実に幅広い分野でのルール作りが模索されており、中国の加盟を非常に難しくしている。経済面における中国封じ込め策、そう思えてくるから不思議だ。
■前田徹(まえだ・とおる) 1949年生まれ、61歳。元産経新聞外信部長。1986年から88年まで英国留学。中東支局長(89~91年)を皮切りに、ベルリン支局長(91~96年)、ワシントン支局長(98~2002年)、上海支局長(06~09)を歴任。